HSBCが商品市場を「スーパー・ブル」と表現する際に重視しているのは、価格が永遠に上がり続けるという予言ではありません。より正確には、**供給と輸送の障害が重なり、通常ならショックを吸収する在庫まで減っている「スーパー・スクイーズ(超逼迫)」**です。
過去の「スーパーサイクル」が中国などの旺盛な需要を主因とすることが多かったのに対し、HSBCは今回の局面を主として供給の混乱が駆動するものと区別しています。
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何が供給を締め付けているのか
複数のリスクが、原油だけでなくエネルギー、金属、農産物へ同時に波及し得る点が特徴です。
- ホルムズ海峡を巡る混乱は、湾岸からの原油・LNG輸送を脅かす
- ロシア・ウクライナ戦争は、エネルギー、穀物、肥料の供給網に影響する
- バブ・エル・マンデブ海峡周辺の攻撃・航行リスクは、運賃上昇と輸送遅延を招く
- 強いエルニーニョ現象は、農作物の収量を損なうおそれがある
エネルギーは採掘、精製、海運、農業のコストに入るため、原油や軽油が高くなれば、鉱山の操業費や食料生産コストにも波及します。報道では、軽油や穀物に加え、肥料、アルミニウム、ヘリウム、航空燃料、ナフサなどにも供給障害が広がっているとされます。
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AIと電化が支える需要
HSBCの見方は供給だけではありません。AIインフラへの投資は、電力、送配電網設備、ハードウェアを必要とします。さらに経済の電化は、銅をはじめとする工業用素材の需要を押し上げます。
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一方で、新しい鉱山の開発には長い時間がかかります。需要が強まっても供給をすぐ増やせないため、エネルギー高が他の商品の生産・輸送費を押し上げる構図と重なり、価格上昇が複数の市場に広がりやすくなります。
COCCLESは何を示し、何を示せないのか
HSBCの機械学習ベースの商品サイクルモデル「COCCLES」は、市場がどの局面にあるかを統計的に見極めるためのシグナルです。HSBCは以前、このモデルが高い確率で「弱い強気(Weak Bull)」局面に移行したと説明し、その後の報道では「弱い強気」から「スーパー・ブル」への移行確率が高まったとされました。
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ただし、これは上昇を保証するものでも、価格高騰の原因を単独で証明するものでもありません。モデルは過去の市場パターンから推論するため、景気後退、政策変更、戦況の変化、天候の改善といった要因で前提は急変し得ます。COCCLESは見通しを判断する材料の一つであり、複数年の上昇相場を確定する指標ではありません。
銅と商品指数が示したこと
銅は、逼迫と個別要因が重なった例です。ロンドン金属取引所(LME)の銅は9月8日、日中取引で1トン当たり1万4,635ドルの最高値を付けました。背景には短期的な供給逼迫に加え、米国が精錬銅の輸入に関税を課すとの観測がありました。
また、ブルームバーグ商品指数は14年ぶりの高値と報じられ、上昇が単一の金属に限られなかったことを示しました。
5 もっとも、商品ごとに需給は異なります。銅価格には関税前の需要取り込みという要因もあるため、価格上昇を現物不足だけで説明することはできません。
在庫が減ると、なぜ小さな障害でも価格が跳ねるのか
在庫は市場のショックアブソーバーです。十分な在庫があれば、製油所、商社、消費者は一時的な供給停止を貯蔵分でしのげます。しかし在庫が減れば、輸送の停滞や生産減を補う即時供給が少なくなります。
HSBCは、ホルムズ海峡の実質的な閉鎖が長引けば、在庫の取り崩しによって一部商品の市場が「転換点」に近づく可能性があると警告しました。
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9 緩衝材が薄い状況では、追加の小さな混乱でも、目先の現物を確保しようとする買いが集中し、価格が非線形に動きやすくなります。
なお、戦略石油備蓄が特定の「底」まで減るとの断定や、欧州のガス貯蔵が目標を下回るとの個別主張は、独立した裏付けがない限り、確定的な事実ではなくストレスシナリオとして受け止めるべきです。
HSBCの価格見通しはどう変わったか
HSBCは2026年の平均商品価格上昇率の予想を、従来の16%から22%へ引き上げました。2027年についても、従来の7%下落予想を横ばいへ修正しました。
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これは直線的な上昇を見込むという意味ではありません。供給障害と在庫の取り崩しが当初想定より長く続き、価格水準がより高い状態で長引くとHSBCがみていることを意味します。
物価、原油、株式市場への影響
商品高が続けば、燃料、物流、肥料、原材料のコストが消費者物価へ波及し、家計の実質購買力を圧迫する可能性があります。インフレ期待が上がれば、中央銀行にとって利下げは難しくなります。
株式市場への影響は一様ではありません。
- 追い風となり得る分野:販売価格の上昇が自社のコスト増を上回る資源生産企業、エネルギー・素材企業
- 逆風となり得る分野:燃料や原材料への依存度が高い運輸、エネルギー多消費型の製造業、消費関連企業
- 市場全体のリスク:インフレと金利の高止まりが続けば、特に金利に敏感な資産の評価を圧迫し得る
要点は条件付きです。供給網の混乱が続き、在庫での穴埋めが進む限り、商品価格には急な上振れリスクが残る――これがHSBCの「スーパー・スクイーズ」論です。逆に、航路の正常化、生産の回復、世界需要の鈍化が進めば、その圧力は和らぎます。
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