UberのAI活用は、単なるコーディング支援の話ではない。むしろ、採用計画そのものの前提を変える試みとして見ると分かりやすい。2026年、同社はAIへの支出を増やす一方で採用を抑えており、ダラ・コスロシャヒCEOは、自律型エージェントがUberのコード変更の約10%を生み出していると説明した。もっとも、そのコードはリポジトリに取り込まれる前に人間がレビューしている[10]。
採用を止めるのではなく、増員の必要性を下げる
Uberが打ち出しているのは、今日の段階でエンジニアを全面的に置き換える構想ではない。狙いは、従業員1人あたりのアウトプットを増やしながら、人員数の伸びを慎重に管理することにある[10]。
コスロシャヒ氏は、従業員がAIを使って生産量を20%、30%、50%、場合によっては100%増やすことを望んでいると述べている[10]。これが実現すれば、事業やプロダクトの開発量を増やすたびに同じペースで人を採る必要は薄れる。
同氏はさらに長期的には、追加のエンジニア採用の一部をAIエージェントやGPUへの投資で代替する可能性にも触れている。ただし、現状のUberではAIが書いたコードを人間のエンジニアが確認する仕組みが残っている[5][
10]。
AIは「補完」から「仕事を任せる相手」へ
変化の中心は、AIがIDE上で次の1行を提案するだけの存在から、より大きな作業を担うエージェントへ移っている点だ。Uberのプラヴィーン・ネッパリ・ナガCTOは、同社がAIコーディングに強く踏み込んでいるとし、Uberのエンジニアの95%が毎月AIツールを利用しているほか、社内AIエージェントが週に約1,800件のコード変更を行っていると述べた[13]。
ここで重要なのは、AIが作った変更がそのまま本番環境へ流れるわけではないことだ。コスロシャヒ氏によれば、AI生成コードはリポジトリへ追加される前に従業員がチェックしている[10]。
Uberの開発生産性向上の取り組みは、コード生成だけにもとどまらない。Developer Productivity Engineeringのセッションでは、同社がソフトウェア開発ライフサイクル全体でAIに投資し、開発者がより速く品質の高いソフトウェアを出せるようにしていると説明された。大規模なモノレポに合わせたコーディング支援のカスタマイズ、大規模なコード移行を担うエージェント型システム、AIを使ったテストやコードレビューのワークフローなどが含まれる[14]。
数字は同じ「AI利用率」でも意味が違う
The Pragmatic Engineerの内部レポートによると、Uberの開発者の84%はエージェント型コーディングの利用者だった。これは、CLIベースのエージェントを使う、またはIDE内で単純なタブ補完よりもエージェント的な依頼を多く行う開発者を指す。同レポートは、IDEベースのツール内ではコードの65〜72%がAI生成だったとも報じている[8]。
ただし、この数字をコスロシャヒ氏の約10%という説明と同じ指標として読んではいけない。約10%は自律型エージェントが生み出したコード変更の割合を指し、65〜72%はIDEベースのツール内で生成されたコードの割合を指す[8][
10]。
実務上は、AIが下書きするコードの量はかなり大きくても、最終的にマージされた変更のうち自律型エージェントに帰属される割合は別の数字になる、ということだ。
コストは消えるのではなく、人件費からツールと計算資源へ移る
AIで採用ニーズが下がる理由はシンプルだ。同じ人数でより多くの開発を進められるなら、Uberはエンジニアリング能力を増やしつつ、人員の増加ペースを抑えられる[10]。
ただし、コストがなくなるわけではない。人件費だけでなく、AIツール、社内基盤、GPUなどの計算資源へ支出先が移る。報道では、UberでAnthropicのコーディングツールClaude Codeの利用が急増し、2026年分のAIコーディング予算を想定より早く使い切ったとの話も出ている。また、同社がClaude CodeやCursorといったツールを使っていることも報じられている[2][
3]。
これらはUberのAI支出全体を示す厳密な会計資料ではなく、あくまで報道上のエピソードとして見るべきだ。それでも、ソフトウェア開発能力が「人員数」だけでなく、「人間、エージェント、ツール、計算資源」の組み合わせとして計画され始めていることを示している。
コーディング以外の業務にもAIは広がる
UberにとってAIは新しい話ではない。同社は以前から、配車料金の算定やドライバーと乗客のマッチングにAIを使ってきた[20]。
近年は生成AIやエージェント型AIが、カスタマーサポート、ドライバーのオンボーディング、エンジニアリング開発ライフサイクルの一部にも入り込み、一部の業務で人手による介入を減らしていると報じられている[11]。
つまり、生産性向上の対象はエンジニアがコードを速く書くことだけではない。社内サービスの問題診断、サポート対応、オンボーディングの手順短縮など、開発の周辺にあるボトルネックもAIで減らせる可能性がある[11]。
エンジニアの仕事はどう変わるのか
現時点で見えているのは、エンジニア不要のモデルではなく、監督付きAIエンジニアリングのモデルだ。AIエージェントが下書きや変更案の作成を担い、人間のエンジニアが設計判断、レビュー、デバッグ、本番品質の責任を持つ[10][
14]。
また、利用率やAI生成コードの割合は、必ずしも監査済みの生産性向上率を意味しない。AIを多く使っていることと、どれだけ品質や開発速度が改善したかは、別の検証が必要な指標だ。
それでもUberの方向性は明確だ。採用を完全に止めるというより、追加採用に頼っていた開発能力の一部をAIで補い、既存のエンジニアをより大きくレバレッジする。AIによる生産性向上が実際の業務で持続する限り、Uberはエンジニアリング投資を続けながら、従来より少ない増員で開発量を伸ばそうとしている[10]。



