売却検討の直接の引き金は、米国政府がSKハイニクスの中国工場向け設備アップグレード許可(VEU:認定最終ユーザー制度)を2025年12月末で失効させたことにある。それまでSKハイニクスはVEU指定により、個別の輸出許可なしに米国規制品の半導体製造装置を中国工場に導入できた。2026年からは年単位の輸出許可制度に移行し、重慶工場への先進パッケージング装置の導入が事実上不可能になった
。
SKハイニクスは、中国事業のリスクを静かに減らしつつある。サムスン電子とともに、中国の半導体装置メーカーAMEC(Advanced Micro-Fabrication Equipment)のエッチング装置をテストし、将来の米国規制強化に備えた代替調達先を模索している。また、両社は「中国フリー」のサプライチェーンを構築し、次の規制ラウンドに備えている
。重慶工場の株式売却は、完全撤退ではなく一部株式を残す形で、中国事業のリスクをヘッジする現実的な選択肢だ
。
1. 評価ギャップ
3,000億円という値付けは、輸出規制で将来性が限られた工場にしては高すぎるとの見方がアナリストの間で強い。買い手は、先端装置の導入に年次の米国輸出許可が必要で、技術的上限がはっきりした工場を引き継ぐことになる。
2. 規制承認リスク
中国投資家への売却は、米国輸出規制当局(BIS)の審査対象となる可能性が高く、韓国政府の承認も必要になる。規制当局が、パッケージング技術の中国流出とみなせば取引を阻止・遅延させる可能性がある。
3. 買い手が限定的
最も可能性が高いのは中国政府系ファンドや地元半導体企業だが、彼ら自身も資金調達の制約や規制上のハードルを抱えている。欧米や韓国の企業が中国に立地する工場を買収する可能性は低い。合弁事業での提携という選択肢もある
。
SKハイニクスは「何も決まっていない」「パッケージ事業の競争力強化のため様々な選択肢を検討中」と公式に発表している。少数株の売却から、過半数売却で自社は少数株主に留まる形まで、複数のシナリオが検討されている
。
SKハイニクスによる重慶工場の売却は、世界のメモリ半導体産業の再編を象徴する動きだ。米中技術対立の深まりを受け、韓国メモリ大手は国内設備への投資を加速する一方、中国事業を見直している。無錫(ウーシー)や大連(ダーリェン)のDRAM・NAND工場は維持するものの、先端パッケージングとAIメモリの生産を中国から徐々に切り離す明確なシフトが読み取れる。投資家や業界関係者にとって、重慶工場の行方は、メモリサプライチェーンの「デカップリング(分離)」がどこまで進むかを示すリトマス試験紙となる。