ドイツはユーロ圏最大の経済です。そのため、同国の鉱工業生産は「ドイツ一国の工場稼働」だけでなく、ユーロ圏全体の景気温度を測る材料として見られやすい指標です。関連するEUR/GBP報道でも、弱いドイツ鉱工業生産はユーロ圏最大経済の健全性への懸念を強め、単一通貨の重しになったと説明されています。
市場の受け止め方は、おおむね次の流れです。
つまり今回の0.7%減は、単なる月次データの下振れにとどまらず、「ユーロ圏経済に十分な勢いがあるのか」という問いを市場に投げかけた形です。
一方で、英ポンドが完全に無風だったわけでもありません。同じ報道では、イングランド銀行(BoE=英国の中央銀行)のベイリー氏が、中東紛争に伴うエネルギー価格ショックがインフレを押し上げ続ける場合には「力強い引き締め」が必要になり得ると警告したとされています。
これは新たな利上げ決定ではありません。ただ、市場にとっては「英国ではなおインフレ警戒が続き、金融政策が引き締め方向に傾くリスクも意識される」という材料になります。
そのため、ユーロ圏側では成長不安、英国側ではインフレ警戒と政策引き締めリスクが意識される構図になりました。相対比較で動くEUR/GBPでは、この組み合わせがユーロ売り・ポンド買い方向に働きやすかったといえます。
重要なのは、この反応が自動的なものではないという点です。別の報道では、ドイツ鉱工業生産が弱かったにもかかわらず、BoEの利上げ観測が冷えたことで、EUR/GBPが0.8710近辺へ小幅に上昇した例もありました。
これは大事な例外です。EUR/GBPは「ドイツ統計だけ」を取引する通貨ペアではなく、「ユーロ対ポンド」を取引する通貨ペアです。したがって、最終的な方向は、ドイツやユーロ圏の景気シグナル、ECBへの期待、英国のインフレ懸念、BoEの政策織り込みがどう組み合わさるかで変わります。
今回ユーロが英ポンドに対して下落したのは、ドイツ鉱工業生産の下振れがユーロ圏の成長期待とECBの引き締め期待を弱めた一方、ポンド側にはBoEのインフレ警戒という相対的な支えが残っていたためです。
したがって、教訓は「ドイツの悪い統計が出れば必ずEUR/GBPが下がる」ではありません。正しくは、「弱いドイツ統計はユーロに圧力をかけるが、実際にEUR/GBPが下がるかどうかは、同じタイミングでポンド側の政策期待や市場心理がどれだけ強いかに左右される」ということです。