AI半導体の需要が急拡大するなか、サムスンはメモリ分野での強みを活かしながら、チップ製造ビジネスでも存在感を高めようとしています。
報道によると、李会長は2026年5月に台湾を訪れ、MediaTek本社で経営陣と非公開会談を行いました。議題は、半導体の受託製造やサプライチェーン協力の可能性です。
MediaTekは「ファブレス企業」と呼ばれるタイプの半導体メーカーで、自社で工場を持たずチップ設計に特化し、製造は外部のファウンドリに委託します。現在、その製造の多くは台湾のTSMCが担っています。
もしサムスンがMediaTekの生産の一部でも受注できれば、台湾の有力設計企業を顧客に取り込むことになり、ファウンドリ事業の信頼性を高める大きな成果になります。
サムスンはTSMCと単純に製造技術だけで競うのではなく、複数の半導体分野を組み合わせた提案を顧客に提示しています。
主な内容は次の通りです。
サムスンはDRAM、NANDフラッシュ、LPDDR、HBMなど幅広いメモリ製品を持つ世界最大級のメモリメーカーです。そのため、AIチップ本体とメモリを一体で提供できる垂直統合モデルを構築できる点が強みとされています。
これは特にAI半導体で重要です。AIアクセラレータや高性能プロセッサは、演算チップとHBMなどの高速メモリを密接に組み合わせることで性能が大きく左右されるためです。
この動きの背景には、世界的なAI半導体需要の急拡大があります。AIアクセラレータ、スマートフォン向けプロセッサ、データセンター向けチップなどの生産契約を巡り、ファウンドリ各社の競争は激化しています。
サムスンは、メモリ供給と製造契約をセットにすることで、供給網を多様化したいチップ設計企業にとって魅力的な選択肢になり得ると考えています。
ただし、TSMCは依然として強力な競争相手です。長年の顧客関係、高い製造歩留まり、安定した生産スケジュールといった要素があり、特にスマートフォン向けSoCのような複雑なチップでは大きな信頼を得ています。
サムスンはファウンドリ事業の信頼性を高めるため、大手テクノロジー企業との提携拡大も進めています。
例えば次のような動きがあります。
こうした関係を積み重ねることで、サムスンはAIインフラ、車載チップ、高性能プロセッサなど幅広い分野に対応できる半導体パートナーとしての地位を築こうとしています。
今回の台湾訪問は、サムスンが単なるメモリメーカーから脱却し、半導体のフルスタック企業へ進化しようとしていることを示しています。
同社が目指すのは次の3つをまとめて提供できる企業です。
もしこの戦略が成功すれば、サムスンは先端半導体製造におけるTSMCの有力な代替選択肢としての地位を確立できる可能性があります。
とはいえ、MediaTekのように長年TSMCと取引してきた企業を引き込むには、プロセス技術、歩留まり、そして長期的な信頼関係の構築が欠かせません。
静かな台湾訪問は、AI時代の半導体覇権を巡る競争がいかに激しくなっているかを象徴する出来事と言えるでしょう。