スタジオ責任者であるドム・マシューズ氏は、この決断を「スタジオが持つ全ての才能と専門性、85人のクリエイター全員を一つにまとめ、『Senua』の可能性を最大限に引き出すための機会」と説明しました 。これは、2013年に発売された『DmC: Devil May Cry』以来、スタジオ全体が単一のプロジェクトに集中する初めてのケースです 。
2020年1月に発表された『Project Mara』は、「現実世界に根ざした、リアルな精神的恐怖の表現」をコンセプトとする実験的な試みでした 。実際の体験談や心理学の綿密なリサーチに基づき、舞台となるのは、たった一室のアパートのみ。Ninja Theoryは特注の3DスキャナーとLiDAR技術を駆使し、現実の部屋を埃や糸くずに至るまで執拗なまでにゲーム内に再現しようと試みていました 。
プロジェクトは常に、商業的な大ヒットを狙うというよりは、新しいストーリーテリングの可能性を探求する、小規模で実験的なショーケースとして位置づけられていました 。しかし、2021年に公開された開発者ダイアリー以降、公式な進捗はほとんど聞かれなくなっていました 。
2026年1月、Windows Centralの編集者であるジェズ・コーデン氏が自身のポッドキャストで、『Project Mara』の開発が事実上ストップしており、スタジオのリソースが『Hellblade 3』(当時の呼称)に移行していると報じました 。
コーデン氏によれば、『Project Mara』は「コンセプト以上の段階に進むことはなく」、アクティブな開発状態にはなかったといいます 。この数ヶ月前の噂は、Xbox Games Showcaseでの公式発表によって現実のものとなりました。
2026年6月、Ninja Theoryは『Senua』の発表と同時に、『Project Mara』の終焉を認めました。新作『Senua』は、シリーズの代名詞であった『Hellblade』の冠を外し、スタンドアロンのアクションアドベンチャーとして生まれ変わります。2027年にXbox Series X/S、PlayStation 5、PCで同時発売され、より深みを増した戦闘システムや、前作の2倍という広大なマップが約束されています 。
Xbox Wireのインタビューで、マシューズ氏は「私はその(Project Maraの)開発をこれ以上進めないという決断を下しました。決して容易な決断ではありませんが、スタジオの全才能と専門知識、85人のクリエイター全員が一丸となって『Senua』の可能性を引き出す、その機会を選び取ったのです」と語りました 。
今回の決断は、単独のスタジオの事情にとどまらず、ゲーム業界全体を覆う構造的な変化を反映しています。パンデミック後の予算引き締めや開発費の高騰、親会社マイクロソフトからの商業的成功へのプレッシャーを背景に、多くのスタジオが「選択と集中」を迫られています。
例えば、『Hi-Fi Rush』で知られるTango Gameworksは一時スタジオ閉鎖の憂き目に遭い(後に別のパブリッシャーにより復活)、343 IndustriesやPlayground Gamesも中核フランチャイズへの集中のために組織再編を行いました 。投資収益率(ROI)が不透明な実験的プロジェクトを切り捨て、より少ない数の、しかしより確実性の高い大型タイトルへとリソースを注ぎ込む。Ninja Theoryの今回の決断は、このパターンに完全に合致します。
結局のところ、心理的恐怖が渦巻くフォトリアルなアパートは、Ninja Theoryの現代的なアイデンティティを決定づけるフランチャイズの引力に勝てなかったのです。プレイヤーにとっては、スタジオの全精力が注ぎ込まれた『Senua』の新章が待っている一方で、『Project Mara』の不気味な一室を探索する未来への扉は、固く閉ざされました。