シンガポール企業ではAIへの投資が進んでいます。しかし、ツールを購入して従業員に使ってもらうだけで、生産性が自動的に上がるわけではありません。効果を引き出すには、AIが役立つ業務を見極め、従業員が使いこなせるよう支援し、時間短縮が実際の成果につながるよう仕事の進め方も見直す必要があります。ある報告では、従業員がAIを活用する準備ができていると考える組織は20%にとどまっています。
6
AIの「導入」と業務の「再設計」は別の話
AIによって個々の作業が速くなっても、業務全体の遅れを生むボトルネックが残っていれば、完了できる仕事の量は増えないことがあります。引き継ぎや確認待ち、承認の遅れがそのままなら、文章作成や要約にかかる時間を短縮しても、全体の処理が速くなるとは限りません。
ツールの導入が広がるほど、この違いは重要になります。シンガポールでは経営幹部のAI投資が増えている一方、AIから広範かつ持続的な事業価値を得ていると回答した組織は18%だと、別の報道は伝えています。
3 また、企業が業務を再設計するより速いペースでAIを導入しているという報告もあり、データやシステム、業務フロー、ガバナンスを整える必要性が指摘されています。
32
準備が必要なのは、技術だけではありません。従業員には、ツールを使える環境に加えて、自分の仕事に即してAIを活用するスキルや自信が求められます。シンガポール経済開発庁(EDB)は、人材の準備にはAIをつくる技術力だけでなく、AIを組み込んだ業務プロセスで効果的に働く力も含まれると説明しています。
2
生産性の数字が異なるのはなぜか
利用可能な情報から、「AIによる生産性向上は起きていない」と結論づけることはできません。シンガポール人材開発省(MOM)の調査では、AIをすでに使っている企業の70.7%が、従業員の生産性向上を報告しています。
36 これは、人材の準備不足や事業価値の広がりが限定的だという報告と必ずしも矛盾しません。調査ごとに対象や測定している成果が異なる可能性があり、提示された情報だけでは直接比較できないためです。
従業員のAI活用準備ができている組織は20%という数字と、経営層が当初、約18%の生産性向上を期待していたという数字は、Singapore Business Reviewの記事で紹介されています。
6 ただし、確認できる記事の抜粋には調査方法が示されておらず、AIを頻繁に使う人の生産性向上が3%にとどまったという数字も裏付けられていません。そのため、3%を確認済みの数値として扱ったり、約18%の期待値と直接比較したりするのは避けるべきです。
AI活用を事業成果につなげるには
ソフトより先に、業務の流れを確認する
業務を最初から最後までたどり、どこで待ち時間や重複作業が発生し、チーム間の受け渡しが滞っているのかを把握します。そのうえで、AIが特定の制約を解消できるかを試します。工程の一部だけが速くなっても、別の工程が遅いままなら、全体への効果は限られます。
タスクに合った導入方法を選ぶ
既存ソフトに組み込まれたAI機能、自社開発の仕組み、新たな専用製品を比較しましょう。業務との相性、必要なデータ、既存システムとの連携、運用ルールを踏まえて選ぶことが大切です。導入できるツールの数ではなく、解決したい業務課題を基準にします。シンガポール企業の導入上の課題についても、データやシステム、業務フロー、ガバナンスをAI活用に合わせる必要性が指摘されています。
32
41
利用状況ではなく、成果を測る
ログイン数やプロンプト数、発行したライセンスの数は、ツールが使われていることを示すにすぎません。作業時間、品質、処理量、手戻りの減少など、対象業務に関係する指標を決め、導入前の基準値と比べましょう。試験導入の結果を確かめてから、対象範囲を広げるのが有効です。
従業員の関与とスキル向上を組み込む
実際に業務を担う従業員を、活用場面の選定や効果の評価に参加させましょう。研修では、AIの一般的な機能だけでなく、具体的な作業でどう使うかを扱います。また、自動化で生まれた時間をどのような付加価値の高い業務に振り向けるのかも明確にします。EDBは、人材の準備にAIの技術的理解と、AIを取り入れた業務プロセスで働く力の両方が必要だとしています。
2
ルールを明確にし、懸念を伝えやすくする
どのツールが承認されているか、入力できる情報は何か、利用記録がどう扱われ、誰がアクセスできるのかを明示します。企業のリーダーは、データセキュリティやAIガバナンスを価値実現の障壁として挙げています。
41 従業員が誤りを報告したり、出力が不適切だと感じたときに相談したりできる窓口も設けましょう。
個人用のAIツールを使う場合は、境界線をはっきりさせることが重要です。その情報の入力が認められていないサービスには、機密情報、個人情報、社外秘情報を入力しないよう徹底します。また、業務の変化や従業員のニーズに合わせ、企業向けツールが今も役立っているかを定期的に見直しましょう。購入しただけで、ツールの有用性が保たれるわけではありません。
問うべきなのは「導入したか」ではない
企業にとって大切なのは、AIを導入したかどうかだけではありません。具体的な業務を以前より効果的に終えられるようになったのか。そして、その改善を支える業務設計、スキル、セーフガードが整っているのかが問われます。シンガポールで報告されている人材の準備不足を踏まえれば、導入そのものをゴールとせず、この点を確かめることが重要です。
5
6