日曜日に勝利すれば、「グランドスラム未勝利の最強プレーヤー」という不名誉なレッテルを剥がすだけでなく、最も得意とするクレーコートで不滅のレガシーを築くことになる。その可能性は、大会前には想像もできなかった形で急浮上した。
今大会のドローは、まさに前代未聞の大荒れだった。ディフェンディング・チャンピオンのカルロス・アルカラスは怪我で棄権。世界1位のヤニック・シナーはまさかの早期敗退。そして、ノバク・ジョコビッチは3回戦で19歳のジョアン・フォンセカに敗れるという衝撃的な結末を迎えた 。
この突然の「パワーバキューム(力の空白地帯)」は、大会前にオッズ12倍だったズベレフを一躍、圧倒的本命へと押し上げた 。決勝前日の朝の時点で、各スポーツブックのオッズは最高で「-400」(1.25倍)にまで達し、これこそが彼がついに殻を破る瞬間だという見方が大勢を占めている
。
しかし、事はそう単純ではない。4月のミュンヘン大会、全仏と同じクレーコートで、コボッリはズベレフを6-3, 6-3のストレートで破っているのだ 。3セットマッチとはいえ、グランドスラム決勝の重圧とは比べ物にならないとはいえ、イタリア人選手が持つストローク力と勝負度胸は、ベースラインからドイツの巨人を追い詰めるに十分であることを示した。
コボッリは、大会前のオッズ100倍という全くのダークホースとしてパリに乗り込んだが、ここまで6試合で落としたセットはわずか2つ。そしてアルナルディの棄権による不戦勝で、ズベレフよりもはるかにフレッシュな状態で日曜日の大舞台に立つ 。
この試合に懸けられているものは、名声だけではない。「Coupe des Mousquetaires(四銃士のカップ)」に加え、優勝者には約324万8000ドル(約5億円)、準優勝者にも約162万4000ドル(約2.5億円)の賞金が授与される 。試合結果次第で、ATPのライブランキングも大きく変動する。
ズベレフにとっては、復活を遂げたキャンペーンの集大成となるか。コボッリにとっては、男子テニス界の巨星たちを飲み込んだ混沌から、一躍スターダムにのし上がる、近年まれに見るシンデレラストーリーの完結編となる。
試合の行方は、ズベレフがいかにして「その時」をマネジメントするかにかかっている。彼はこれまでグランドスラム決勝でリードを奪いながらも、自らの手で勝利を手放してきた。2020年の全米オープンでは、優勝まであと数ポイントに迫りながら逆転を許した。
対するコボッリには失うものはなく、しかも直近の対戦で勝ったという戦術的設計図をすでに手にしている。大会全体を定義した「大番狂わせ」の連続が、最後の幕引きもまたドラマチックなものになることを予感させる。
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