スペースXの新規株式公開を巡る数字は、過去のあらゆる記録を粉砕した。
2026年6月11日、スペースXは1株135ドルでIPOの公募価格を決定。5億5560万株を売り出し、総額750億ドル(約11兆2500億円)を調達した。これは、2019年にサウジアラムコが樹立した294億ドルという従来の記録の2倍以上にあたり、瞬く間に史上最大の株式公開となった。この価格設定は、同社の評価額を約1兆7700億ドルとするものだった。
翌6月12日、ティッカーシンボル「SPCX」としてナスダック・グローバル・セレクト・マーケットとナスダック・テキサスに同時上場すると、投資家の旺盛な需要が株価をさらに押し上げた。初値は公募価格から11.1%高い150ドルで取引を開始。そして終値は160.95ドルと、初日で19%もの上昇を見せた。この株価に基づくスペースXの時価総額は**2兆1000億ドル(約315兆円)**を超え、同社は地球上で最も価値のある上場企業の一角に瞬く間に躍り出たのである。
このIPOの最も具体的な波及効果は、7000マイル(約1万1000キロ)離れたサウジアラビアの証券取引所で感じられた。
ナスダック上場後、キングダム・ホールディングはタダウル(サウジ証券取引所)への開示資料で、4240万株のスペースXクラスA普通株を保有しており、これは同社の発行済み株式数の0.34%に相当することを明らかにした。160.95ドルの終値を基に計算すると、この持ち株の公正価値は約68億3000万ドルに達する。わずか数カ月前、2026年3月31日時点の財務諸表では、同じ株式の帳簿価額はわずか44億7000万ドルだった。その差額は、実に約23億6000万ドルの未実現利益に相当する。
アルワリード王子の持ち分は、この会社の財務だけに留まらない。彼の個人事務所と合わせたスペースXの保有比率は、同社全体の**0.63%**に達する。王子が個人で保有するのはこのうち0.29%で、これはIPO前の評価額8000億ドルに基づくと約32億ドル相当と試算されていた。
この複合的な保有が明らかになると、キングダム・ホールディングの株価は短期間ながら急騰した。2026年6月初旬、保有開示を受けて株価はタダウル市場で10%近く急伸。2営業日で**21%も急騰し、同社の時価総額は6月11日に534億4000万サウジ・リヤル(約2兆1400億円)**と、10年ぶりの高水準に達した。
ナスダック上場後にはさらに5%上昇し、時価総額は約560億リヤルにまで達した。しかし、この熱狂は長くは続かなかった。同社の株価は依然として2007年のIPO価格を大きく下回っており、一部のアナリストは、スペースX株に**180日間のロックアップ期間(売却制限)**が課されているため、短期的に現金化できる価値は限定的だと指摘している。
この莫大な利益の起源は、2022年のある企業再編の瞬間にまで遡る。
アルワリード王子とキングダム・ホールディングは、イーロン・マスク氏が同社を非公開化するまで、ツイッターの大株主だった。総額440億ドルの買収の一環として、アルワリード氏は保有株を現金化するのではなく、**ツイッターの株式をマスク氏が率いる未公開企業の株式に振り替える(ロールオーバーする)**ことに合意したのだ。
この決断は当時、極めて流動性の低い資産に対するマスク氏の大きな野望への賭けと広く見られていた。しかし、その賭けは壮大な形で報われた。マスク氏は2026年2月、AI企業「xAI」をスペースXに統合し、IPOを目前にしてアルワリード氏の保有資産の価値を一本化・最大化したのである。
このIPOは、サウジアラビアの2017年の汚職一掃作戦の影響で大きな逆風に直面していた王子にとって、個人的な資産の目覚ましい復活を決定づけるものとなった。
IPO後の彼の純資産は約245億ドルから247億ドル(約3兆6900億円)に急増し、これは過去10年以上見られなかった水準だ。これにより、同氏はフォーブス世界長者番付で93位に位置している。この利益はあくまで「含み益」であり、市場変動や株式売却制限の影響を受けるものの、イーロン・マスク本人を除けば、スペースXのエコシステムから派生した最も桁外れな単一の富の創造劇の一つであることに変わりはない。
整理すると、数字は極めて明快だ。11兆円の資金調達、315兆円の時価総額、そして「適切なタイミングで適切な大富豪に賭けた」一人のサウジ王子が手にした、3400億円の未実現利益である。