その後、2026年4月、メタは彼女に新たな任務を与えました。AIエージェントを中心とした抜本的な組織再編の一環として、アンドリュー・ボズワース(Andrew Bosworth)最高技術責任者(CTO)は、スミス氏が社内向けAIツールのプロダクト開発を主導すると発表したのです 。彼女の部署が担う任務は非常に野心的なものでした。それは、断片的で使いにくい状態だった社内ツール群を、メタの主力社内AIアシスタントである**Metamate(メタメイト)**を中心とした一貫性のあるシステムに統合することでした。これには、社員がAIを効果的に活用するために必要なインターフェース、メモリーシステム、自動化機能などが含まれます
。
この役割は、メタがユーザーに提供する製品だけでなく、メタ自身の運営方法においても「AIネイティブ」になるというビジョンの中核を担うものでした。スミス氏のグループは、メタが世界に売り込もうとしている「AIファースト」の未来の実験場とも言える、自社社員のためにAIを役立つものにする責任を負っていたのです。
しかし、それから7~8週間後の6月17日、ロイター通信はスミス氏が退任すると報じました 。彼女は社内向けのメッセージで、退任の具体的な理由については明言しませんでした。ただ、CTOのボズワース氏と協力して引き継ぎを支援するために当面は留まると述べており、メタは公式コメントを控え、後任者も発表されていません
。
任命から退任発表までの約2カ月という短さこそが、投資家や業界ウォッチャーの最大の関心を集めています。このニュースを受けてメタの株価は5%以上下落し、アナリストたちは突然のリーダー不在が同社のAIの勢いに何を意味するのか疑問視しました 。
彼女が去るのは、周辺的なプロジェクトではありません。「仕事のためのAI(AI for work)」変革は、メタの2026年の組織再編における主要な柱の一つです。このプログラムは、Metamateを中心的なインターフェースとして、全社の日常業務にAIエージェントを組み込むことを目的としています。この実現を担うプロダクトリーダーが、後任も決まらぬまま去ることは、この構想が計画通りに進むかどうかに深刻な不確実性をもたらします 。
スミス氏の離脱は、メタの社員や投資家を不安にさせてきたパターンを再確認させるものでもあります。同社のAIへの転換は、約10%の人員削減や一連の幹部退任といった大きな動きを伴ってきました 。社内AI推進の中核を担う人物がわずか数週間で去るという事実は、根本的な組織再編計画が内部で摩擦を起こしているのではないかという厳しい疑問を投げかけます。
CTOのアンドリュー・ボズワース氏が移行を指揮しますが、より大きな問題は戦略的なものです。メタがAIネイティブになるという計画は、二つの変革の同時進行にかかっています。一つはFacebook、Instagram、Threadsといった消費者向け製品にAIエージェントを組み込むこと、そしてもう一つは、メタの社員自身が日々の業務でAIに依存するように社内の業務運用を再構築することです。
スミス氏の部署は、この二つ目の変革を担当していました。彼女の退任は、社内で長らく「断片的で一貫性がない」と評されてきたメタのAIツール群が、統合に向けてようやく動き出した矢先に、プロダクトリーダーシップに空白を生み出します 。Metamateはその中心的存在でしたが、統合作業がどこまで進んでいたのかについて、公開情報はほとんどありません。
スミス氏の退任理由が公表されないことで、アナリストや社員は行間を読まざるを得ません。彼女の役職を生み出したのと同じ組織再編には、大規模なレイオフや社内の大きな反発も含まれていることは注目に値します 。スミス氏の離脱が、AI戦略をめぐる社内の広範な意見の相違を示すものなのか、個人的な理由なのか、あるいは全く別の何かなのかは不明です。しかし今のところ、メタのAIへの野心と自社の従業員との橋渡し役を務めるはずだった幹部は、その橋が完成する前に歩き去ろうとしているのです。