総合タイム差8秒で迎えたこのステージ、総合リーダーのマイヨ・ジョーヌを着るカシア・ニエヴィアドマ=フィニー(キャニオン・スラム)は、最大のライバルであるデミ・フォーレリングのアタックに対応しようとした。その瞬間、フォーレリングのアシスト役として前を走っていたセリア・ジェリーが、ニエヴィアドマの進路を塞ぐようにガードレール側へ寄った形になった。
ニエヴィアドマはこの動きによってペダルを止めざるを得ず、フォーレリングのホイールに乗れなかったと主張。このわずかなロスが致命的となり、ニエヴィアドマはこのステージでマイヨ・ジョーヌをフォーレリングに明け渡した。
ゴール後のミックスゾーンで、怒り心頭のニエヴィアドマはジェリーに対して公然と非難の言葉を浴びせた。「あまりにも子供じみている。彼女たちへの敬意をすべて失った。あれは作戦の一部だったんでしょ」と語り、所属チームのキャニオン・スラムは即座にUCIレース審判団へ正式な抗議文書を提出した。
ニエヴィアドマの公の場での非難は、瞬く間にSNS上で拡散され、標的となったジェリーへの憎悪へと変わった。FDJユナイテッド・スエズのスポーツディレクター、ラース・ボームはオランダメディア『Sporza』に対し、「セリアはSNSで完全に叩かれている。彼女は殺害予告を受けている」と衝撃の事実を明かした。
ジェリー自身も後にこの経験を振り返り、その精神的苦痛を語っている。
「本当に乗り越えるのが難しい経験でした。目にするのも辛かった。『お前は死ぬべきだ』とか『こんな場所にいる資格はない』といったメッセージを見ました。本当にきつかった。」
彼女はSNSアカウントの非アクティブ化も考えたという。
それでもジェリーは第9ステージへの出走を決意。チームへの献身を貫いた。
キャニオン・スラムの抗議を受け、UCIのレース審判団は映像を精査した。しかし、審判団が出した公式見解は「Rien à signaler(特記事項なし)」だった。
ジェリーに対するペナルティ、罰金、警告のいずれも科されなかった。審判団はこの接触を「ハードなレースの中での出来事」と判断したのである。
デミ・フォーレリングは即座にチームメイトを擁護した。
「何が起きたかはわからない。何も見ていない。彼女(ジェリー)がわざとやったはずがない。そして、カシアも心の奥底では、レースではこういうことが時々起こるものだとわかっていると思う。」
しかしフォーレリングは、ニエヴィアドマの公の場での非難に対し、自らも切り返した。彼女は2024年のツール・ド・フランス・ファムでの過去の出来事を持ち出したのだ。
「2年前に私が落車して地面に倒れていた時のことを、私は忘れていない。あの時、彼女(ニエヴィアドマ)は全開で踏み続けた。」
この一言で、両者の間で長年くすぶっていた確執が表面化した。
最終日となった第9ステージの序盤でも、両者の間には張り詰めた空気が漂い、走りながら激しい言葉を交わす場面も見られた。 しかし、レース中に直接対話を行い、すぐに事態は収束に向かった。
ニエヴィアドマ=フィニーは自らの非難の仕方が騒動を拡大させたことを謝罪し、「誰も揉め事を望んでいない」と述べ、両者の間には和解が成立した。
フォーレリングはこの件は終わったとした上で、ニエヴィアドマが公の場で非難したことでジェリーへの誹謗中傷が誘発されたと批判した。
耐え難い経験を強いられながらも、セリア・ジェリーは初めてのツールをこう締めくくった。
「自分がやったことに誇りを持てる。初めてのツール・ド・フランス・ファムで、チームのためにすべてを尽くした。いろいろあったけど、良い思い出として覚えている。」
彼女は総合21位でフィニッシュ。チームの総合優勝に大きく貢献した。
デミ・フォーレリングが2026年ツール・ド・フランス・ファムの総合優勝を飾った。最終総合表彰台は以下の通り。
| 順位 | 選手 | チーム | 総合タイム |
|---|---|---|---|
| 1位 | デミ・フォーレリング | FDJユナイテッド・スエズ | 30時間54分51秒 |
| 2位 | カシア・ニエヴィアドマ=フィニー | キャニオン・スラム | +1分18秒 |
| 3位 | エリサ・ロンゴ・ボルギーニ | UAEチーム・L'IMA | [ソースデータ参照] |
セリア・ジェリーは総合21位(+44分08秒)で初出場のツールを完走した。