欧州の銀行が、**重要リスク移転(Significant Risk Transfer、SRT)**の活用を加速させている。SRTは、融資そのものを売却せず、将来の貸倒損失のうち特定の部分を外部投資家へ移す仕組みだ。
報道によると、サンタンデール、BBVA、ドイツ銀行は合計で少なくとも175億ドルの信用エクスポージャーに紐づく取引を進めている。狙いは規制資本の効率化にある。融資残高や顧客との関係を維持したまま、特定ポートフォリオに割り当てる資本を減らし、新規融資の余力を確保する。3行はいずれも、報じられた個別取引についてコメントを控えた。
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どのような取引が報じられているか
サンタンデール:複数の国・資産クラスでSRTを検討
サンタンデールは、5件の取引を協議していると報じられている。対象には、次のような融資が含まれる。
- 英国部門が組成した、約14億ポンドの商業用不動産・プロジェクトファイナンス向け融資
- 約30億ユーロのスペイン住宅ローンを参照する、資金拠出を伴わない信用保証型の取引
- ブラジルの中小企業向け融資、約120億レアル(約23億ドル)
- メキシコ向け融資に連動する可能性のある取引
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重要なのは、その対象の広さだ。不動産、住宅ローン、企業向け融資を複数の法域にまたがって組み合わせており、特定の融資分野だけに限った対応ではない。サンタンデールについては以前にも、英国の商業用不動産ローンや米国の法人向けローンを対象とした資本軽減取引が報じられていた。
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BBVA:大企業向け融資に加え、中小企業向けも
BBVAは、約50億ユーロ(約58億ドル)の大企業向け融資を対象とするSRTを進めているとされる。これとは別に、小規模企業向け融資ポートフォリオを対象にした取引も計画しているという。
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ドイツ銀行:約40億ドルの大企業向けローン
ドイツ銀行は、約40億ドルの大企業向け融資に連動するSRTの販売を始めたと報じられた。
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SRTの仕組み:ローンは銀行に残り、損失リスクの一部だけを移す
SRTは一般に、合成証券化として組成される。銀行はローンの保有、管理、元利金の回収を続ける一方で、保証やデリバティブに似た信用保護契約を通じ、デフォルト損失の特定部分を移転する。
投資家は、借り手のデフォルトが起きた場合に、定められた損失層を負担する。多くの場合、その部分はジュニア層またはメザニン層だ。その見返りとして投資家は対価を受け取る。つまり、ローンは銀行のバランスシートに残る一方、信用リスクの一部だけが外部へ移る。
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規制上の核心は、この移転が「十分に重要なリスク移転」と認められるかどうかにある。認められれば銀行はリスク・アセットを圧縮し、普通株式等Tier 1(CET1)資本の軽減効果を得られる可能性がある。普通株の増資、ローンポートフォリオ全体の売却、バランスシート縮小を行わずに、新規融資などへ資本を振り向けられることになる。
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なぜ銀行はSRTを使うのか
銀行にとってSRTは、重要な顧客との取引関係と融資の組成能力を維持しつつ、規制資本の負担を管理する手段になる。とりわけ、商業用不動産や中小企業向け融資のように、景気環境の変化によって想定損失や規制上のリスクウェイトが上がりやすい分野では意味が大きい。
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投資家にとっては、損失の先順位が低い、あるいは中間的なリスクを引き受ける代わりに、高いリターンを狙える点が魅力となる。例えばManulife CQS Investment Managementは、規制資本軽減戦略のファンドで約10億ドルの資金を募り、約**13%**の内部収益率を目標としていたと報じられた。ただし、これは目標値であり、運用成果を保証するものではない。
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機関投資家の資金流入も続く。アブダビ投資庁(ADIA)とChristofferson Robb & Co.(CRC)は、SRTとCRCが運用する他の戦略に投資するファンドの設立を発表している。
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銀行の資本軽減と、投資家に集中するリスク
SRTによって借り手のデフォルトそのものがなくなるわけではない。変わるのは、誰がどの損失を先に負担するかだ。
注目すべきリスクは主に4つある。
- ポートフォリオの信用リスク: 金利上昇、景気悪化、サプライチェーンの混乱は、特に商業用不動産、中小企業向け融資、法人信用で借り手の返済負担を高め得る。
- モデル・価格設定リスク: 投資家は、ローンの質、デフォルトの相関、損失が自らのトランシェに達する水準を見極める必要がある。需要が強い局面ほど、規律ある価格設定が重要になる。
- 規制上の認定リスク: 資本軽減は、監督当局が実質的なリスク移転を認めることが前提となる。当局が取引構造に異議を唱えたり、変更を求めたりすれば、見込んだ効果は小さくなり得る。
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- 金融システムの透明性: 信用リスクが規制対象の銀行から、保険会社、ファンドなど幅広い投資家へ移ることで、システム全体のリスクが必ず高まるとは限らない。ただし、リスクの総量や偏りを把握・比較しにくくなる可能性はある。
今回の取引パイプラインが示すこと
少なくとも175億ドル規模とされる今回のパイプラインは、SRTが欧州大手行にとって、問題債権向けの特殊な取引ではなく、日常的なバランスシート管理の手段になりつつあることを示す。サンタンデールの多国籍・多資産型の展開、BBVAの大企業・小規模企業向け取引、ドイツ銀行の大企業向けローン取引は、いずれも同じ考え方に基づく。ローンを維持し、損失の一定部分を移転し、資本の余力を得るというものだ。
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ただし、これらは報じられた非公開取引であり、最終条件が公表されたわけではない。各行にとっての経済的な価値は、投資家が求める価格、移転するリスク層の詳細、規制上の資本処理が認められるかどうかによって決まる。
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