Hyperliquidが暗号資産から伝統的資産へ急拡大した原動力は、HIP-3(Hyperliquid Improvement Proposal 3) と呼ばれる仕組みです。これは、2025年10月13日にメインネット上で稼働を開始した、パーミッションレス(許可不要)の永久先物市場フレームワークです 。
その仕組みは明快です。50万枚のHYPEトークンをステーキング(担保として預け入れること)した人なら誰でも、Hyperliquidの取引エンジン上に、独自の永久先物市場を開設できるのです。追跡する資産は何か、どの価格情報(オラクル)を使うか、レバレッジの上限はどうするか、手数料体系はどう設計するか。すべてを、市場の開設者が自由に決められます 。
このHIP-3において、支配的な存在なのが「Trade.xyz」です。HIP-3全体の建玉の9割以上を占めており、これまでにWTI原油、金、銀、ナスダック100指数、NVDAやTSLAといった個別株、さらにはプレIPO契約まで、幅広い市場を次々とローンチしてきました 。2026年3月初旬には、HIP-3経由の出来高が、Hyperliquid全体の1日の出来高73.4億ドルのうち30%を占めるまでになっていました
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HIP-3のインパクトを最も劇的に証明したのが、原油市場です。2026年4月9日、Hyperliquid上のWTI原油とブレント原油の永久先物契約は、24時間で合計40億ドルという驚異的な取引高を記録しました。これは、同じ取引所におけるビットコインの1日の出来高を初めて上回った瞬間です 。
引き金となったのは地政学的な緊張でした。2026年2月下旬の金曜日の夜、米国とイスラエルによるイランへの空爆が報じられた時、伝統的な商品デリバティブ市場は閉まっていました。しかし、Hyperliquidは開いていました 。
この時、WTI原油の永久先物(CL-USDC)の1日の取引高は、通常の約2,100万ドルから、一気に12億ドル超へと急増しました。トレーダーたちが原油へのエクスポージャー(投資上の感応度)を求めて殺到したのです 。2026年3月までに、この契約は1日の取引高がピーク時に17億ドル、建玉が約3億ドルにまで膨らみ、プラットフォーム上で3番目に取引される商品となりました
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さらに驚くべき調査結果もあります。TD証券の報告によれば、Hyperliquidにおける週末の原油価格が、週明け月曜日のCMEの始値を80%の精度で予測していたのです。これは、このオンチェーン(ブロックチェーン上の)取引所が、伝統的な取引所が閉まっている49時間の週末の間に、すでに価格発見(市場での適正な価格形成)を主導し始めている可能性を示唆しています 。
2026年3月18日、S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスは前代未聞の一手を打ちました。同社の代表的な株価指数である「S&P500」を、Hyperliquid上で永久先物を発行する「Trade.xyz」に対してライセンス供与したのです。S&Pのブランドが、ブロックチェーンのプロトコルにライセンス供与されたのは、長い歴史の中でこれが初めてのことです 。
米ウォール・ストリート・ジャーナル紙はこの動きを、既存の取引所への直接的な挑戦だと報じました。ICE(インターコンチネンタル取引所)やCMEといった伝統的な取引所にとって、24時間365日稼働する競合との戦いが初めて現実のものとなったのです 。
この公式ライセンスを取得したS&P500永久先物は、機関投資家向けの高品質なS&P DJI指数データを使用し、USDC(米ドル連動型ステーブルコイン)で決済され、対象となる非米国投資家であれば、24時間365日、いつでも取引できます 。ローンチから数日で1日の取引高が1億ドルを突破し、すぐに取引所内で取引高トップ10に入る主要市場となりました
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特に注目すべきは、Hyperliquid上のS&P500永久先物の取引高のうち、半分近くが米国市場の取引時間外に発生しているという点です。具体的には、金曜日の取引終了から日曜日のCME先物が再開するまでの49時間の間で、他の取引所がすべて閉まっている時間に取引が活発に行われているのです 。
2026年5月18日、Trade.xyzは、Hyperliquid上で「SPCX-USDC」というティッカー(銘柄コード)の、SpaceXプレIPOの合成永久先物契約を開始しました。基準価格は150ドルで、これはSpaceXの企業価値を、完全希薄後株式数に基づいて約1.78兆ドルと見積もった計算です 。契約開始から数時間で、この価格は一時216ドルまで急騰しました
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6月12日のSpaceX IPOを前に、HyperliquidやBinanceなどのプラットフォームを合計した建玉の総額は2億1,500万ドルを超え、累計の出来高は22億ドルを突破しました 。IPO前日の6月12日時点では、BinanceのSPCXプレマーケットの建玉が2億5,200万ドル超と、Hyperliquidの約2億2,500万ドルをわずかに上回っていました
。ただし、Hyperliquidにおけるより広範なプレIPO市場全体では、合計で2億5,000万ドル以上の建玉を集めていたとTalosは報告しています
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オンチェーン分析企業のArkham Researchはこの現象を、Hyperliquidが「プレマーケットにおける価格発見の主要な場としての地位を確立しつつある」証拠だと評しました 。上場当日、SPCX永久先物はナスダックの終値に対して約7%のプレミアム(割高な状態)で取引され、IPO価格が135ドルだったのに対し、172ドル前後で推移していました
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時間外取引に関する統計は驚くべきものです。Talosの分析によると、Hyperliquidにおける石油永久先物の出来高の60%以上、そしてS&P500永久先物の出来高の約50%が、米国市場の取引時間外に発生しています 。
2026年6月2日、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、Hyperliquidが「規制された市場の取引時間外に取引を行う、増え続ける伝統的金融のプロフェッショナルたちにとって、頼りになる取引所(the go-to venue)」として台頭していると報じました 。
なお、Hyperliquidは現在も米国居住者は利用できません。ただし、規制対象地域の一部のユーザーがVPN(仮想プライベートネットワーク)経由でアクセスしている事実も、同紙は指摘しています 。このプラットフォームは、その広範な資産カバレッジと24時間稼働により、暗号資産以外の利用が主流になりつつあり、HIP-3市場の出来高の大半をコモディティと株価指数が牽引しています
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Hyperliquidのプロトコル経済は、今や暗号資産業界でも最強クラスです。2025年度のプロトコル収益は8億4,300万ドルに達し、2026年3月だけでも約6,100万ドルの手数料収入を記録。これは年間換算で6億4,000万ドル超のペースです 。
週次のプロトコル手数料は、2026年半ばまでに約1,400万~1,560万ドルに達しており、すべての暗号資産プロトコルの中で、テザー(USDT発行元)とサークル(USDC発行元)に次ぐ手数料収入を誇ります。このランキングは、2026年3月から6月にかけての複数の業界レポートで確認されています 。
ただし、この「第3位」という比較ランキングは、「プロトコル収益」をどのように定義するかによって若干変わります。ステーブルコイン発行元を同じカテゴリーに含めるかどうかで、暗号資産エコシステム全体で「4位」とする分析もあります 。いずれにせよ、わずか11人チームで8億4,300万ドルの収益を上げているという事実は、他のほぼ全てのDeFiプロトコルの単位当たり経済性を凌駕しています
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この価格上昇は、3月のS&P500ライセンス発表や、記録的な原油取引高、5月のSpaceXプレIPO契約のローンチなど、持続的な追い風となる材料が重なった結果でした。なお、HYPEの建玉自体は2025年8月に158億ドルのピークを付けていましたが、現在の市場構造は、Binanceの建玉の約34%、CMEの暗号資産先物の建玉の約54%に相当する規模を反映したものとなっています 。
HIP-3が切り開いた「あらゆる資産を、パーミッションレスに、オンチェーンで継続的にデリバティブ取引する」という道筋は、既存の市場インフラ関係者の大きな注目を集めています。経済誌Fortuneは2026年4月の記事で、24時間取引が常態化するにつれて、「伝統的な決済の窓口(the traditional settlement window)」は閉じつつあると報じました 。
米国ユーザーが未だアクセスできないHyperliquidですが、今、市場が二度と閉じることのない世界において「公平な競争条件とは何か」という、規制をめぐる議論の中心に立たされています。
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