従来のDUV露光が、マスクを通して光を照射する高精度なプロジェクターだとすれば、Prinanoの技術は、ナノレベルの精巧なハンコを押すようなものです。同社の真空中圧式ウエハーレベルNIL装置「PL-AS」は、そのシンプルさゆえにコストを劇的に削減します。
これらの要素が組み合わさり、「DUVに比べてコストが10分の1」というインパクトのある結果を生み出しています 。
「コスト10分の1」という数字は衝撃的ですが、その適用範囲を正しく理解する必要があります。Prinanoが今回発表した技術は、あくまでも光チップ、つまりLiDAR(レーザー光によるセンシング技術)や光通信、高性能センサー向けのチップが対象です 。スマートフォンの頭脳に当たるような、3nm以下の最先端ロジック半導体の製造に必要な極端紫外線(EUV)露光装置の代替を狙ったものではありません。
光チップに求められる回路線幅は、最先端ロジック半導体ほど厳しくないため、NIL技術で十分に対応可能なのです。
Prinanoは、キヤノンに次いで世界で2番目に半導体グレードのNIL装置を商業化した企業であり、今回の成果は単なる技術発表以上の重みを持ちます 。
2025年8月には、自社開発したステップ&リピート方式のNIL装置「PL-SRシリーズ」を国内顧客に初納入。この装置は10nm以下の線幅を実現可能と報告されており、メモリチップやシリコンフォトニクス、先進パッケージングなどの研究開発用途で既に検証を終えています 。
今回の2026年の発表は、このNIL技術が研究開発段階から、検証済みのスケーラブルな製造段階へと進んだことを示すマイルストーンです。先端ロジック向けのEUV装置とは異なる、いわば「特化型チップ」の領域で、中国が完全に国産の装置だけで生産可能であることを実証したのです。
もちろん、NIL技術には重ね合わせ精度や生産性(スループット)に関する課題が残ると指摘するアナリストもいます 。しかし、極限のトランジスタ密度を求められない光チップにおいては、NILのコスト競争力と解像度は既に実用レベルに達していると言えるでしょう。
Prinanoの躍進は、半導体製造装置の世界がASMLの独占ではないことを示しています。最先端ロジックではEUVが不可避であっても、センサーや光学デバイスなどの分野では、NILという並行軌道が存在感を増しています。この動きは、サプライチェーンの再編を促し、新たなチップ設計者たちの参入障壁を下げる可能性を秘めているのです。