同じインタビューでは、パレスチナ人がガザを恒久的に離れるよう促すべきだとの考えも示された。また、ガザ全域をイスラエルの領土とみなす姿勢も語られており、こうした主張はガザでのイスラエル人入植地建設を支持する立場と結び付けて報じられている。
そのためハルト氏にとって問題は、一つの過激な発言だけではない。攻撃の激化、人間性を否定する言葉、住民の移転、入植地拡大という一連の主張が、EUが守るべき原則と両立しないという判断が、制裁要求の背景にある。
これは、イスラエル政府や国民全体と、両閣僚の政治的立場を切り分ける議論でもある。つまり、制裁はイスラエル全体への措置ではなく、特定の閣僚の言動に対する外交的なシグナルだという位置付けだ。
ハルト氏は、ドイツの与党保守会派であるCDU/CSU議員団の外交政策報道官を務める。そのため発言は個人的な意見にとどまらず、フリードリヒ・メルツ首相とヨハン・ヴァーデプール外相に、ベン・グビル氏の制裁対象指定をめぐる従来の立場を見直すよう促す圧力になる。
ただし、現時点でドイツ政府が正式に政策を変更したことを示す証拠はない。これまでの報道では、ドイツはイスラエルの閣僚を制裁対象に加える案や、ヨルダン川西岸の入植地との貿易を制限する案に反対していたとされる。 その後もヴァーデプール外相は、入植地貿易の禁止には全会一致が必要だとの立場を示し、ドイツが提案に慎重な姿勢を維持していると報じられた。
したがって、ハルト氏の発言は政府決定ではなく、ドイツ国内で政策転換を求める有力な政治的アピールと見るのが適切だ。
EUはすでに、ガザへ向かっていた人道支援船団「グローバル・スムード・フロティラ」の活動家らへの対応を理由に、ベン・グビル氏への制裁を検討していた。6月のEU外相会合では、複数の加盟国が制裁を提案したものの、合意には至らなかった。EU外交・安全保障政策上級代表のカヤ・カラス氏も、多くの国が制裁を提案したが必要な合意を得られなかったと説明している。
一方、国単位での対応はすでに進んでいる。2025年6月には、英国、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、ノルウェーが、パレスチナ人社会への暴力を扇動したとして、ベン・グビル氏とスモトリッチ氏への制裁を発表した。 フランスとアイルランドも2026年、両氏に入国禁止措置を取ったと報じられている。
ただし、こうした各国独自の措置は、EU全体で統一された制裁制度とは別のものだ。
EUでは、占領下のヨルダン川西岸にあるイスラエル入植地との貿易を制限する案も協議されている。検討された選択肢には、輸入許可制度、禁止的な高関税、貿易禁止が含まれた。7月の会合では貿易禁止案への支持が最も強かったものの、加盟国の意見は割れ、共通の措置は承認されなかった。
ベン・グビル氏個人への制裁と、入植地に関連する商取引の制限は、関連性はあるものの同じ措置ではない。前者は一人の閣僚を対象とし、後者は入植地と結び付いた商業関係に影響を及ぼす。いずれもEU加盟国の合意形成が大きな壁になっている。
ハルト氏の発言は、ドイツの保守系与党に政策の再考を迫り、ベン・グビル氏への対応を求める議論に新たな勢いを与えた。ドイツ社会民主党(SPD)からも両閣僚に批判的な声が出ており、ラース・クリングバイル副首相はその後、EU制裁を真剣に検討すべきだと述べ、ベン・グビル氏の発言を非人道的だと批判した。
それでも、ハルト氏の要請やドイツ国内の批判だけで制裁が決まるわけではない。現時点で確認できるのは、ベルリンとブリュッセルの双方で意見の対立が続いていることだ。ドイツが立場を変え、さらにEU加盟国すべてが同意しない限り、ベン・グビル氏の発言は、制裁決定ではなく政治的圧力の段階にとどまる。