BTSの声明はこう述べています。「私たちは今年、グラミー賞に出品しないことを決めました。音楽が地域や言語で区切られるのではなく、音楽そのものが聴かれ、愛されることを願っています」。所属事務所HYBEを通さず、メンバー各自の個人Instagramアカウントから発信された点も注目され、グループとして結束した強い意志を示しました 。HYBEは後に「これはあくまでBTSの個別判断であり、他の所属アーティストに影響を及ぼすボイコットではない」と釈明しています 。
レコード・アカデミーは2026年6月16日、第69回グラミー賞に向けて5つの新部門を発表しました。その中の一つが「最優秀アジアン・ポップ・パフォーマンス」です 。この部門はポップ&ダンス/エレクトロニック部門に属し、対象は「1つまたは複数のアジア言語を有意義に使用した」作品で、具体的にはK-POP、J-POP、C-POPを想定しています 。全編英語の楽曲は対象外となります 。
アカデミー側はこの部門を「アジア市場発、またはアジア市場で広く認知されているアジアン・ポップ音楽の芸術的卓越性を称える」ために創設したと説明しています 。しかし、BTSの発表はこのカテゴリーが発表されてからわずか1カ月余りで行われ、彼らがこの新部門を「アートの隔離策」、つまり西洋ポップの同僚と並んで主要部門で競う道を閉ざす「専用レーン」と捉えたことを示しています 。
BTSは歴代の韓国アーティストとして最多となる5回のグラミー賞ノミネート(受賞歴なし)を誇ります 。その内訳は以下の通りです。
グラミー賞で最も多くノミネートされた韓国アーティストであるにもかかわらず、一度も勝てなかったという経緯—そして今、新たに別枠の部門を提示されたこと—が今回の決断の背景にあると見られます 。
BTSは兵役を全員終え、約6年ぶりに完全体として復帰した2026年3月20日、6thアルバム『Arirang』をリリースしました 。同作は全米アルバムチャートBillboard 200と、リードシングルがBillboard Hot 100で同時に初登場1位を獲得 。Spotifyでは初日ストリーミング再生数1億1000万回を記録し、2026年の全世界ベストセラーアルバムの一つとなりました 。
Forbesや音楽賞予測サイトGold Derbyなどの業界関係者は、『Arirang』はBTSに「最優秀アルバム賞」をはじめとする主要部門での史上最高のチャンスをもたらすと予想していました 。実際、同作の制作には過去にグラミー賞受賞歴のあるクレジット保有者が8人参加しています 。Forbesは「BTSにとってグラミー賞で最も大きな年になる」と評しました 。
しかし、そんな絶好のタイミングで出品を見送ったことは、トロフィーそのものよりも、自らの音楽が評価されるべき「場」の条件に対する強いこだわりを如実に示しています 。
BTSが記録的なアルバム『Arirang』をグラミー賞に出品しなかったことのメッセージは明快です。彼らは自分たちの音楽を、他のグローバル・ポップ・アーティストと同じ一般部門で評価してほしいのであり、地域限定の「アジアン・ポップ」賞に押し込まれることを拒否したのです 。これまで5度のノミネートで受賞ゼロという事実が、レコード・アカデミーがBTSをどこに位置づければいいか苦慮してきたことを示唆していました。新部門の創設は、彼らから見れば、アジア言語のポップスを分離する固定的な仕組みを公にしたものに他なりません 。
グループの声明にある「音楽は地域や言語で区切られることなく、そのものとして聴かれ、愛されることを願います」という言葉こそが、この決断の核心です 。