今回の発表で最も注目を集めたのが、zHBMです。これは、従来のようにAIアクセラレータの横にHBMを配置するのではなく、AIアクセラレータの真上に垂直にHBMを積層するというコンセプトです。高度なウェハボンディング技術によってこの配置を可能にしています。サムスンは、zHBMによりHBM5の約8倍の性能、10倍を超えるメモリ密度、3倍のエネルギー効率、そして熱抵抗を半分以下に低減できるとしています。ただし、zHBMはあくまで物理的なコンセプトモデル(モックアップ)であり、量産時期は未定です。このアーキテクチャが実現すれば、それまでのHBM世代の基盤であったシリコンインターポーザーが不要になります。
さらにサムスンは、V-NAND技術にTSV(シリコン貫通電極)を組み合わせ、4個または8個のNANDチップを1パッケージに垂直積層するzNAND-Oも発表しました。このアーキテクチャはエッジAIワークロード向けに設計されており、空間効率、I/O性能、レイテンシの改善が強調されています。zHBMと同様、zNAND-Oもコンセプトモデルであり、量産時期は未定です。
サムスンのブースでは、HBMロードマップの次段階となるHBM4Eのサンプルと、HBM5のコンセプトモデルも展示されました。同社は2026年2月に1c DRAMと4nmプロセス技術を活用したHBM4の量産を業界で初めて開始し、さらに同年5月にはHBM4Eのサンプルをグローバル顧客に初めて提供しました。HBM4Eの量産は2027年を目標としており、第4世代のハイブリッドボンディングプロセスを採用する予定です。
サムスンは、業界初のPIM(Processing-in-Memory)機能を搭載したLPDDRメモリとされるLPDDR5X-PIMもデモンストレーションしました。この設計では、メモリ内部でデータ処理の一部を実行することで、メモリとCPU/GPU間のデータ転送量を削減。AI推論ワークロードにおいて効率を高め、消費電力を抑えることが可能です。
サムスンは、AIインフラ向けの次世代エンタープライズSSDプラットフォームとして、PM1763およびBM1773も展示しました。
カウンターポイント・リサーチによると、サムスンは2026年第2四半期のグローバルDRAM市場において、売上高ベースで39%のシェアを獲得し、**26%**に後退したSKハイニックスを逆転してトップに立ちました(マイクロンは25%)。このシェア変動は、汎用DRAMの需要増加とサムスンのHBM生産拡大が要因で、一方SKハイニックスはHBMの価格が停滞したことが響きました。SKハイニックスは前年同期比214%の増収を達成したものの、市場シェアは2025年第2四半期の39%から2026年第2四半期には26%に低下しています。これにより、サムスンはSKハイニックスに一時的に明け渡していたトップの座を奪還しました。
サムスンは7月30日に行った2026年第2四半期の決算説明会で、大きな戦略転換を発表しました。それは、メモリ生産能力全体の60~70%を長期供給契約(LTA)に割り当てるという計画です。
LTAの主な内容は以下の通りです。
バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチの調査によれば、これらの契約条件は明らかに供給側に有利で、四半期ごとの値下げは5%に制限される一方、値上げの余地は無制限となっています。
サムスンだけが目立っていたわけではありません。FMS 2026では他の主要プレーヤーも大きな動きを見せました。
まとめ:サムスンがFMS 2026で発信したメッセージは、アーキテクチャの再発明——zHBMやzNAND-Oは現在のメモリ設計からの根本的な脱却を示すもの——であり、それを強力なDRAM市場の勢いと、AI顧客向けに生産能力の60~70%を固定化する新たなLTAビジネスモデルが支えるというものでした。業界全体としては、メモリの階層化(HBM、HBF、SSD)とPCIe 6.0インターフェースへの収斂が明確に進んでおり、AIインフラ向けメモリを巡る熾烈な競争と革新の時代を象徴するものとなりました。