メモリチップがスマホ部品コスト全体に占める割合は、わずか数年の間に約13%から43% へと跳ね上がった。つまり、メモリ価格の上昇がデバイス全体の原価に与えるインパクトは、以前とは比べ物にならない。HuaweiのPura 90シリーズに至っては、最新の高騰が発生する前の段階で、すでにメモリ価格上昇だけで1台あたり1,000~1,500円 の部品原価増を記録している。
余氏の警告の背景には、以下の4つの複合要因が存在する。AIブームによるHBM(High Bandwidth Memory)向けファブ能力の転用、3社によるDRAM寡占体制、DDR4からDDR5への移行期における生産の混乱、そしてAppleさえも安価な逃げ道を見つけられない地政学的な対立構造である。
1. AI需要がファブ能力を奪う:AIデータセンター向けチップ、特にHBMの爆発的な需要により、最先端のファブ能力がスマホ向け汎用DRAMから、より利益率の高いHBMに振り向けられている。サムスンとSKハイニクスは、新世代ラインの多くをHBMに割り当てており、モバイルDRAMの供給が逼迫している。
2. DRAM3社寡占の弊害:世界のDRAM生産の大部分はサムスン、SKハイニクス、マイクロンの3社で占められている。供給がわずかに逼迫するだけで、市場全体にすぐに価格圧力が波及する仕組みだ。
3. DDR4→DDR5移行の混乱:DDR4からDDR5への移行期は、旧世代ラインの段階的停止と新世代ラインの量産立ち上げのタイムラグが重なり、供給が不安定になる。
4. Appleの「切り札」がまさかの逆効果:Appleは中国のDRAMメーカー・長鑫存儲(CXMT)を交渉カードとして使い、サムスンとSKハイニクスへの依存度を下げることで、モバイルDRAM価格の引き下げを狙った。しかし、この戦略は完全に失敗した。
Appleは次期iPhone向けLPDDR5XモバイルDRAMの調達コストを抑えるため、CXMTに値下げを打診した。ところがCXMTは値引きを拒否し、サムスンやSKハイニクスと同水準、あるいはそれ以上の価格を提示したのだ。なぜCXMTは世界最大の顧客であるAppleの要求をはねのけられたのか。
その答えは、中国国内の旺盛な需要にある。Huawei、Xiaomi、ByteDanceなど中国の大手テクノロジー企業が、CXMTの生産能力の大半を長期契約で押さえていたのだ。特にByteDanceは70億ドル規模の長期契約を締結している。CXMTの供給能力はすでに中国ブランド向けでひっ迫しており、Appleに値引きをするインセンティブはまったく無かった。
サムスンとSKハイニクスは、今回の事態から二重の恩恵を受けている。
2026年7月下旬、すなわち8月5日の警告の数日前、米国上院議員がAppleのティム・クックCEOに宛てて書簡を送付した。超党派の議員団は、AppleがCXMTおよび長江存儲(YMTC)製のメモリチップを決して使用しないことを2026年8月21日までに確約するよう要求した。
この政治的压力により、AppleはCXMTをサプライヤーとして使うという選択肢を事実上奪われた。すでにCXMTが値引きを拒否していたところに、この政治的圧力が加わり、Appleは価格交渉のテーブルでサムスンとSKハイニクスに完全に依存せざるを得ない状況に追い込まれている。
この連鎖は次のような構図で進んでいる。第一に、AI需要、DRAM寡占、DDR5移行が供給逼迫の基盤を作った。第二に、中国ブランドがCXMTの生産枠を買い占めたため、CXMTはAppleの値下げ要求をはねのけられた。第三に、米国の政治圧力がCXMTという選択肢そのものをテーブルから排除した。その結果、余氏が「業界全体が値上げか出血かを迫られる」と警告し、サムスンとSKハイニクスはHBMビジネスとモバイルDRAM高値維持の両方で利益を得る構造が完成した。
TrendForceのデータによれば、PC向けDRAMの契約価格は2026年初頭に一部で90%以上急騰した。Xiaomi、Oppo、Vivoなどのスマホメーカーは、2026年の出荷予測をすでに複数回下方修正している。業界全体は、過去数年で最も激しい価格調整の波に直面している。