Anthropicの広報担当者はBusiness Insiderに対し、「この取り組みにより、ハードウェアとモデルを共同設計(co-design)し、Claudeをお客様が必要とする規模で、より速く、より効率的に動作させることが可能になる」と語っている。
Anthropicは自社の採用サイト(Greenhouse)に、少なくとも2つのチップ関連求人を掲載している。
| 役職 | 勤務地 | 年収(USD) | 業務内容 |
|---|---|---|---|
| Silicon Engineer(半導体エンジニア) | サンフランシスコ(ハイブリッド) | 32万ドル~48.5万ドル(約4800万~7300万円) | フロントエンド設計、物理設計、検証、パッケージング、ファウンドリインターフェースなど、チップ開発の全工程を担当。「実際にシリコンを出荷(shipped silicon)した経験」が必須。 |
| Research Engineer, Chip Design RL(強化学習によるチップ設計研究) | サンフランシスコ / ニューヨーク | 50万ドル~85万ドル(約7500万~1.3億円) | AIモデル自身が半導体設計を学習・実行できるようにする研究。いわば「AIにチップを設計させるAI」を作る役割で、コードRLチームに所属。 |
特に後者の役職は「AIがチップを設計し、そのチップがAIを動かす」という好循環(フライホイール)を生み出すための、極めて野心的なポジションと言える。
Anthropicの戦略の要(かなめ)は、単一のサプライヤーに依存しない「多様化されたマルチプラットフォーム戦略」だ。2025年10月の公式ブログでは「3つのチッププラットフォーム(Google TPU、AWS Trainium、NVIDIA GPU)を効率的に活用する独自の戦略」と説明していた。
その後、2026年7月にはAMDとの大型契約(最大2GWのInstinct MI450、AMDから最大50億ドルの出資)で4社体制に拡大。今回の内製チームが加わることで、Anthropicのコンピュート戦略は第5の柱を迎えることになる。
| サプライヤー | チップ | 規模・特徴 |
|---|---|---|
| AWS | Trainium | 最大5GWの契約。「Project Rainier」の中核。 |
| TPU | 最大100万基のカスタムTPU。2026年に1GW超、2027年からはマルチGWの次世代TPU。 | |
| NVIDIA | GPU | 依然として使用中だが、依存度を積極的に低減中。 |
| AMD | Instinct MI450 | 最大2GW。AMDによる50億ドルの出資も含む。 |
| Anthropic(内製) | 未発表 | 推論最適化が有力。Claudeアーキテクチャとの共同最適化が可能。 |
Anthropicは、内製チームを立ち上げた後も、既存のマルチサプライヤーとの関係を維持すると明言している。
2026年6月24日、OpenAIはBroadcomと共同開発した自社設計の推論専用ASIC「Jalapeño」を発表した。これはTSMCの3nmプロセスで製造され、設計開始から9カ月という驚異的なスピードでテープアウトに成功。NVIDIAの現行GPUと比較して、トークンあたりの推論コストを約50%削減できるとしている。
両者のアプローチを比較すると、以下のようになる。
| 項目 | Anthropicのアプローチ | OpenAI「Jalapeño」 |
|---|---|---|
| 設計モデル | 完全内製(自社チーム) | Broadcomとの共同設計 |
| 製造 / ノード | 未発表。Samsung Foundryとの2nm協議の報道あり | TSMC 3nm |
| 現状 | 採用・設計段階。チップのテープアウトは未完了 | テープアウト済み。エンジニアリングサンプルがGPT-5.3-Codex-Sparkを実稼働中 |
| 目的 | 未確定(推論+訓練の共同設計の可能性) | 推論専用 |
| コスト削減効果 | 未確認 | NVIDIA GPU比で推論コスト約50%削減 |
| 利用範囲 | 社内のClaude向けとみられる | OpenAI専用。外部へのレンタルは不可 |
AnthropicはOpenAIに比べて開発の初期段階にあるが、もしSamsungの2nmプロセスを採用すれば、Jalapeñoの3nmよりもさらに先端のノードを狙うことになる。
Anthropicの成長は驚異的だ。
最先端のAIアクセラレータを設計するためのコストは、業界推定で5億ドルから10億ドル以上と言われている。しかし、これをAnthropicの年商約300億~470億ドルと比較すると、その割合は**約1~3%**に過ぎない。仮にこのチップがClaudeの推論コストを劇的に削減できれば、投資額はすぐに回収できる計算になる。暗号資産分析サイトCryptopolitanは「このコストは、Anthropicが外部のコンピュートに支払う額のほんの一部だ」と指摘している。
AI半導体の主権を自らの手に——Anthropicの決断は、AI業界の勢力図を大きく変える一石となるかもしれない。