特筆すべきはその価格決定方法だ。従来のIPOでは投資家の需要を探るロードショーを経て価格帯を決めるのが一般的だが、SpaceXは上場の数週間前から1株135ドルの固定価格を設定。これは並々ならぬ需要への自信の表れと受け止められた。
このIPOを理解する上で最も重要な数字は857億ドルではない。4.9% だ。これはグリーンシュー行使後でも、全発行済み株式のうち市場で実際に売買できる「流通株」の割合である。IPO時点での流通株はわずか4.2%であり、1.77兆ドルの評価額に対して、実際に取引される株はほんの一部だった。
この極端な薄さが猛烈な需給逼迫を生み、需要側からは巨大な圧力がかかった。
結果として株価は上昇の一途を辿る。6月12日の寄り付き150ドルから上昇を続け、6月16日には211.80ドルで推移。時価総額は**約2.8兆ドル(約420兆円)**に達し、一時は2.95兆ドルと、マイクロソフトの日中最高値をわずかに上回る場面もあった。
6月16日朝、SpaceXはついに時価総額でアマゾンを公式に追い抜いた。アマゾンの時価総額が約2.65〜2.68兆ドルで推移する中、上場からわずか4営業日目の企業がそれを上回ったのだ。
その軌跡は驚異的である。
取引量も加熱を物語る。6月16日だけでSPCXの取引高は11.6億ドルを超え、プレマーケットの出来高は複数のプラットフォームで2位以下を大きく引き離す規模だった。
市場価格が語る楽観論とは裏腹に、ファンダメンタルズを重視するアナリストたちは厳しい警告を発している。
CFRAのアナリスト、キース・スナイダー氏は6月12日、異例となる「売り(Sell)」評価と、目標株価115ドルを発表。これはIPO価格135ドルを下回り、その後200ドルを超えた株価からは最大46%の下落を示唆するものだ。同氏は「過度に野心的な成長戦略、大きな資本集約度、そして過大評価されたバリュエーション期待」を懸念材料として挙げた。
モーニングスターのアナリスト、ニコラス・オーエンス氏はさらに踏み込み、IPO前に1株あたりの適正価格を63ドルとするリポートを発表。モーニングスターはこの評価について「懐疑主義よりも数学の結果」と説明し、200ドルを超えた市場価格は「明らかな割高」と断じた。
3番手のニュー・ストリート・リサーチは165ドルとやや中立的な目標価格を示したが、それでも6月15日の取引水準を大きく下回っている。
弱気派の論点はシンプルだ。急騰を支えた薄い流通株は、相場の転換点においては下げを加速させるリスクを内包している。同じ量の売りが殺到すれば、上昇時と同じスピードで暴落する可能性がある。
SpaceXマニアの熱気が最も鮮明に表れたのは、日本市場かもしれない。日本の家計金融資産は約15兆ドルに上り、個人投資家は2018年のソフトバンクグループ上場以来、これほどの大型IPOに出会っていなかった。
需要と割り当ての差(6.2億ドルの需要に対し22億ドルの割り当て)は、いかに個人マネーが供給を上回っていたかを如実に示している。
SpaceXの上場は、宇宙開発という実体的な技術資産、熱狂的な個人追随者を持つ創業者、そして極度に薄い流通株という、稀な条件が揃ったことで定義づけられている。
強気派の根拠は、これまで投資家が長年支持してきたビジョン——打ち上げ事業、スターリンク、そしてAI事業が総合的に世界最大級の時価総額を正当化する——にある。一方、弱気派は、現在の株価が実現の不確実性と資本集約度の高さを無視した「完璧な未来」を織り込みすぎていると主張する。
投資家にとって最大の問いは、この希少性主導の急騰が「新たな基盤」なのか、それとも「一時的な歪み」なのかという点だ。複数のアナリストが警告するように、トレンドが反転した時、上昇を可能にした薄い流通株は、その下降を劇的なものにする可能性がある。