TSMCは2025年の北米テクノロジーシンポジウムで、310mm×310mmのCoPoS製品ラインを発表。2028年末までの製品出荷開始を目標に掲げた 。
CoPoSの展開は二つの道筋で進んでいる。一つはパイロットラインで、こちらは計画通りに進捗した。研究開発チームへの装置搬入は2026年2月に始まり、TSMC子会社のVisEra(采鈺)が運営する龍潭工場の全ラインが2026年6月に完成した 。6月4日のTSMC年次株主総会で、魏哲家・会長兼CEOは「パイロットラインは稼働しており、主要材料・消耗品は確保済みで、包括的な装置とプロセスの検証段階にある」と公式に進捗を認めた 。
もう一つは量産への道筋だが、こちらは状況がはっきりしない。サプライチェーンや業界筋の間で最も広く語られる量産開始時期は、2028年末から2029年前半で、台湾・嘉義に建設中のAP7工場が主な生産拠点となる見通しだ 。情報によっては、2028年末までに出荷が始まる可能性も示唆されている 。
しかし、2026年4月には相反する報道が飛び出した。DigiTimesの情報として、量産開始が2030年第4四半期までずれ込むというのだ。市場の大方の予想より約2年遅い。この遅延理由として報じられたのは、パネルレベルへのスケールアップ時に生じる「均一性」と「反り(そり)」に関する根深い技術的課題だ 。なお、TSMCの先端パッケージングへの設備投資は、2025年から2027年にかけて年平均24%の成長が見込まれており、この賭けが同社のロードマップの中心に据えられていることを如実に示している 。
TSMCはCoPoSの開発を単独で進めているわけではない。材料、部品、装置を含む包括的なサプライチェーンの構築を積極的に推進し、すでに台湾のパートナー企業の認定を開始している 。2026年初頭には、台湾の「先端パッケージ・ナショナルチーム」に新たに国内企業2社がCoPoSエコシステムに参画。TSMCが量産立ち上げを支える現地サプライチェーンの育成に、いかに注力しているかを示している 。
現在、パネルレベル実装の分野で明確なリーダーはサムスンだ。同社はこの技術を何年も前から事業化しており、モバイルプロセッサや電力管理IC(PMIC)に適用し、今ではTeslaのような顧客を狙う超大型パネルの「System-on-Panel(SoP)」技術の開発も進めている 。サムスンのFOPLPプラットフォームは、従来のフリップチップ実装と比較して最大40%のフォームファクタ縮小、15%の熱性能向上といった具体的なメリットをすでに提供している 。
TSMCはこの分野で出遅れ、本格的な開発に着手したのは2024年になってからだ 。しかし、CoPoSは一点集中の反撃策といえる。TSMCはモバイルや汎用チップで直接競争するのではなく、NvidiaのGPUやハイパースケーラーのASICといった、今後数十年のデータセンターアーキテクチャを定義する最大かつ最も複雑なAIプロセッサ向けに、CoPoSを専用設計した。もしTSMCがパネルスケールの技術的問題を解決し、2028年から2029年の量産開始にこぎ着ければ、AI時代に特化したプラットフォームでサムスンの先行者利益を大きく切り崩せる可能性がある。
先端実装市場は、アナリストが「ゴールデンサイクル」と呼ぶ、数量と価格が同時に拡大する特異なフェーズにある。その推進力は、もっぱらAIコンピューティング需要だ 。数字がその規模を物語る。
こうした急拡大にもかかわらず、2.5D/3D実装の供給能力は恒常的に逼迫している。Sigmaintellは、この需給不均衡が少なくとも2027年後半まで続くと予想する 。CoPoSは、この供給不足に対するTSMCの長期的な回答だ。現在のCoWoSのインフラでは決して提供できない生産能力を、ウェハーレベルの限界を超えて引き出す切り札となる。
この壮大なロードマップにおいて、最大の変数は市場の需要ではなく、工学だ。TSMCが、初期段階で悩まされてきたパネルレベルの「均一性と反り」という問題を解決できるか否か。それが、CoPoSが2020年代の終わりに強力な競争相手として登場するか、2030年までずれ込むかを決める 。2026年半ばの現時点で、パイロットラインは完成し、サプライチェーンは構築されつつあり、資金も投入されている。あとは、TSMCがその四角いパネルから、どれだけの良品率(Yield)を引き出せるかにかかっている。