もしAGCMの調査結果が支持されたり、欧州委員会の最終判断に影響を与えたりした場合、フランス、ドイツ、スペイン、オランダなど他のEU加盟国の規制当局にとっても、ブリュッセル(欧州委員会)の判断を待たずに、ゲートキーパーと呼ばれる巨大プラットフォーマーに対して積極的に調査を仕掛けることができるという強いシグナルとなります。今回の調査でAppleに違反が認められれば、同社はDMAの強力な抑止力のひとつである、年間全世界売上高の最大10%という制裁金を科される可能性があります 。
2. プラットフォームの中核機能へのアクセス権が争点に
今回の技術的な主張は、非常に具体的です。現在のiOSとiPadOSでは、アプリ、設定、システムデータなどを含むデバイスの「完全バックアップ」を実行するために必要な、OSの低レベルなハードウェアおよびソフトウェアインターフェースに、競合のクラウドサービスがアクセスすることを許していません 。これが可能なのは、iCloudだけです。
AGCMは、この状況について、「AppleのiCloudが利用できるのと同じハードウェアおよびソフトウェア機能への『平等なアクセス』を競合他社に否定しているように見える」と指摘しています 。もしAppleが敗訴した場合、長年にわたりセキュリティとプライバシーを理由に拒否してきた、OSの深い部分への統合ポイントを開放せざるを得なくなるかもしれません
。
3. クラウドの「垂直的相互運用性」が新たなDMAの主戦場に
これまでのDMAに基づくAppleへの執行措置は、サードパーティ製アプリストアの解禁、デフォルトブラウザの選択肢の提供、NFC決済機能(Apple Payのタッチ決済などに使用される近距離無線通信技術)へのアクセス開放といった分野に焦点が当てられてきました 。今回のケースは、競合サービスがOSそのものにどこまで深く統合できるかという、「垂直的相互運用性」に監視の目が向けられたことを意味します。
Appleが敗訴すれば、クラウドストレージとバックアップ機能は「オプションの便利機能」ではなく、DMAが保証する「必須の相互運用サービス」であるという前例が確立されます。ユーザーにとっては、この調査が良い結果に終われば、将来的にAndroidやデスクトップ環境で当然のように行われている、真のOSレベルでのバックアップ先の選択が、iOSやiPadOSでも可能になることを意味します。
Appleは、完全なシステムバックアップへのアクセスを制限することは、ユーザーのプライバシーとデバイスのセキュリティを守るために必要であると主張するとみられています 。同社は、他のDMA遵守をめぐる紛争でも同様の論理を展開しており、サードパーティによるシステムへの深いアクセスは、悪用やデータ流出のリスクを高める「侵入口」になり得るとの立場です。
AGCMの調査は、この「セキュリティ」という大義名分が、DMAが求める相互運用性の基準を満たす正当な理由になるのかを問うことになります。DMAは、技術的に同等で安全なアクセス手段を提供できると欧州委員会や競争当局が判断した場合、ゲートキーパーがセキュリティを無制限の「盾」として使うことを認めていません。
クラウドストレージ市場にとって、競争促進的な結果は、Appleのプラットフォーム上でiCloudに対抗するサービスにとっての参入障壁を下げることになります。DMAの執行という観点では、今回の調査は大きな分水嶺となるでしょう。各国の規制当局が独立してビッグテックへのコンプライアンス(法令遵守)圧力を加速できることが初めて証明され、これにより包囲網が多面化する可能性があります。
しかし、これには規制の「断片化」というリスクも伴います。もし複数の国の競争当局が、異なる解釈に基づいて別々のDMA調査を追求した場合、ゲートキーパーはEU加盟国ごとに矛盾する義務を負わされる可能性があります 。イタリアの調査は、この緊張関係をどう管理していくかを占うテストケースとして、世界中の規制当局や巨大IT企業から熱い視線を浴びることになるでしょう。
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