交渉はスト開始直前まで続き、韓国政府が仲介に入ったことで労使は暫定合意に到達した。これにより予定されていたストは、組合の投票結果が出るまで停止される形となった。
もしストが実施されていれば、AIサーバーやスマートフォンなどに使われるメモリー半導体の供給に影響が出る可能性があり、世界の半導体サプライチェーンへの懸念が高まっていた。
今回の合意案は、給与とボーナスの両方で大きな変更を含む。
2026年の給与は平均で約6.2%引き上げられる。これは基本給の底上げを意味し、全体の報酬水準が上がることになる。
サムスンは**半導体(DS)部門の営業利益の約10.5%**をボーナス原資として配分する仕組みを導入する予定だ。利益が大きいほどボーナスも増える設計になっている。
AI向けメモリー需要が急拡大しているため、メモリー半導体部門の社員の中には約41万6000ドル(約6500万円前後)相当のボーナスを受け取る可能性があると報じられている。支給の多くは現金ではなく会社株式の形になる見込みだ。
ただし、この合意はまだ確定していない。韓国の組合員約8万9000人が電子投票で承認の是非を決めており、過半数の賛成が必要とされている。
問題になっているのは部門間の報酬格差だ。
AIブームで利益が急増しているメモリー半導体部門は非常に高額なボーナスが期待される一方、ファウンドリー(受託生産)、ロジック半導体、スマートフォン、家電など他部門の従業員はそれより小さい報酬になるとみられている。
そのため、争点は「会社対労働組合」から、社員同士の利益配分の公平性へと移りつつある。
今回の合意が正式に成立すれば、サムスンの半導体部門の人件費は増える可能性が高い。
理由は次の2つだ。
・基本給が6.2%引き上げられる
・営業利益と連動するボーナス制度が拡大する
特に利益が急拡大しているメモリー半導体部門では、ボーナス支給額が大きくなり、人件費の増加幅も大きくなる可能性がある。ただし、会社全体の人件費がどの程度増えるかはまだ公表されていない。
金融市場はスト回避を好感した。合意が報じられた後、サムスン電子の株価は一時6.5%上昇した。
投資家にとっては、人件費の増加よりも生産停止のリスクが消えたことの方が重要視された形だ。
サムスン電子は世界最大のメモリー半導体メーカーであり、AIデータセンターやスマートフォンなど多くの製品に供給している。
もし長期ストが起きていれば、AI向けメモリーやDRAMなどの供給に影響し、世界のテクノロジー産業にも波及する可能性があった。
今回の暫定合意により、少なくとも短期的にはそのリスクは後退した。ただし、組合投票の結果と、部門間の報酬格差をめぐる議論が、今後のサムスンの労使関係を左右することになりそうだ。