最も基準にしやすい公的な数字は、WHOが5月4日に出した疾病アウトブレイク情報です。WHOによると、5月2日に船内の重い呼吸器症状の集団発生について通報があり、5月4日時点で7例が確認されていました。その内訳は、ハンタウイルス感染が検査で確認された2例、疑い例5例で、死者3人、重篤な患者1人、軽症を訴える人3人でした 。
ただし、乗客が退避し、各国で検査を受けるなかで数字は動いています。WHOに言及した5月9日の報道では、報告例は8例――確定5例、疑い3例――で、死者は3人とされ、この集団感染は「パンデミックの始まり」ではないと説明されました 。また、5月11日のAP通信報道(米紙ボストン・グローブ掲載)では、死者3人、隔離中の確定または疑い例6人とされ、米国人乗客の陽性報告についてはWHO報道官が「判定不能」と説明したと伝えています 。
つまり、これらの数字は同じ事象を異なる時点・異なる症例定義で切り取った「スナップショット」と見るべきです。共通しているのは、死者3人が報告されていること、そして確定・疑い例の人数は小規模ながら調査と隔離の過程で変動していることです 。AP通信はまた、WHOのマリア・ファンケルクホーフェ氏が、今回の事例をクルーズ船でのハンタウイルス集団感染として初めてのものと説明したとも報じています 。
フランスでは、MV Hondius号から退避した人の中で1人の陽性が確認されています。仏紙ル・モンドによると、5人のフランス人が5月10日に本国へ移送され、パリで入院。うち1人の陽性が夜間に判明し、フランス保健当局は翌朝までに22人の接触者を確認しました 。
フランス当局の対応は、入院、隔離、接触追跡によって感染連鎖を断つことにあります。ル・モンドは、船に乗っていたため高リスク接触者とされたフランス人らについて、ウイルスの潜伏期間とされる6週間の隔離期間が設けられると報じています 。別の報道では、感染した患者は感染症を専門とする病院で治療を受けており、病棟では感染拡大を防ぐための防護措置が取られているとされています 。
5月11日時点で、乗客は20カ国以上へ帰国便で移送され、各国で隔離または監視下に置かれているとAP通信は報じています 。国別の詳細が比較的はっきりしているのは、フランスとカナダです。
当局は、船内にいた人や濃厚接触者にとってのリスクと、一般市民全体へのリスクを切り分けて説明しています。5月11日のAP通信報道では、保健当局が「より広い一般社会へのリスクは低い」としていると伝えられました 。WHOに言及した別の報道も、MV Hondius号の集団感染は公衆衛生上のリスクが低く、パンデミックの始まりではないとしつつ、船内での評価、隔離、消毒措置が続いていると伝えています 。
もっとも、「リスクが低い」は「リスクがない」という意味ではありません。ECDCは、EU/EEA(欧州連合・欧州経済領域)の公衆衛生担当者、医療従事者、輸送関係者向けに、MV Hondius号でアンデス・ハンタウイルスに曝露した可能性のある人を管理するための指針を出しました 。その指針では、症状のある乗客は到着時に医学的評価と検査を優先的に受けるべきだとし、状態や運用上の判断に応じて、テネリフェ島で隔離するか、母国へ医療搬送して隔離する可能性があるとしています 。
現在の封じ込め策は、公式指針と各国対応を合わせると、かなり一貫しています。曝露した可能性のある乗客を特定し、管理された条件で移送し、症状のある人を検査・診察し、帰国後も隔離または監視する。さらに接触者を追跡し、医療従事者や輸送関係者を守る――という流れです 。
無症状の退避者にも隔離が求められるのは、このためです。カナダへ戻った4人は出発前に無症状と評価されていましたが、それでもブリティッシュコロンビア州で隔離を続けています 。フランスでは、帰国者の1人が陽性となり、接触者が確認されたことで、隔離と追跡の対応が強化されました 。
現時点での要点は、MV Hondius号の集団感染は乗客、乗員、医療チーム、濃厚接触者にとって重大な事案である一方、当局の公衆衛生メッセージは、広範な社会的緊急事態ではなく、管理された封じ込め対応として進められている、という点にあります 。