つまり、いま医師に許された武器はただ一つ、「対症療法」 のみ。激しい嘔吐や下痢による脱水を防ぐための大量輸液や電解質補給、酸素投与、二次感染の予防などを通じて、患者自身の免疫力でウイルスに打ち勝つのを「待つ」しかないのである 。過去の流行では、致死率は30%〜50%に達したと報告されている
。
ようやく5月28日、WHOの専門家会議により、3つの治験候補(モノクローナル抗体「MBP134」「マフチビマブ」、抗ウイルス薬「レムデシビル」)が優先的に臨床試験へ進められることが決まったばかりだ 。
注目すべきは「疑い例」と「確定例」の圧倒的な乖離だ。900人を超す疑い例が検査未確定のまま放置されている現実は、このアウトブレイクの本質的な危機を物語っている。つまり、検査能力が極端に不足しているのである 。保健当局は、ウイルスが探知されるまでに数週間も密かに拡散していた可能性を認めており、本当の感染者数は公式の数字をはるかに上回るとみられている
。
重苦しい数字が並ぶ中で、2026年5月27日、極めて重要な希望が記録された。世界保健機関(WHO)が、今回のブンディブギョ株で検査確定された患者として初めて、完全に回復し、コンゴの病院を退院した事例を確認したのである 。
この患者は、2回のPCR検査で陰性が確認され、コミュニティへと戻っていった 。WHO報道官のアナイス・ルガン氏は、これが確定患者として確認された「初」の回復例だとしつつも、未確認の疑い患者の中にも多くの回復者がいるはずだと述べている
。ワクチンも特効薬もないこの戦いの中で、「人はちゃんと回復できる」と証明された医学的な価値は計り知れない。
WHOの警戒感の強さは、2026年5月17日の異例の動きに集約される。テドロス・アダノム・ゲブレイエスス事務局長はこの日、この流行を**「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」** に指定すると発表した 。
何がここまで「異例」だったのか。
通常、PHEICの宣言には「緊急委員会」の招集・審議を経る。しかしテドロス事務局長は今回、国際保健規則(IHR)第12条に基づき、史上初めて、緊急委員会の招集に先立ってPHEICを宣言したのだ。それほどまでに、国境を越えた急速な拡大リスクと「迅速な行動の必要性」が高いと判断されたのである 。緊急委員会はその後5月22日に正式な暫定勧告を出している
。
しかし、DRCのサミュエル・ロジェ・カンバ保健相はこうした「拡大制御不能」の決めつけに公の場で真っ向から反論。「封じ込めは未だ達成可能だ」と強調し、接触者追跡やコミュニティ支援の拡充を着実に進めている最中だと主張している 。もちろん、検査数が限定されデータは不完全なだけにあくまで楽観視はできないが、地元当局が主導権を維持しようともがく姿勢が見える。
ワクチンなき戦いの行方は、紛争地での検査体制の拡充と、コミュニティとの信頼構築という、非常に地味で骨の折れる二本柱にかかっている。
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