今回の状況は、安定した和平というより「緊張を抱えた停戦」と見るのが近い。報道によると停戦は4月8日に発効したが、その後も交渉は行き詰まり、ホルムズ海峡が最大の争点になった 。CBSも、UAEや海峡の船舶をめぐる攻撃報道の中で、停戦が4月8日に発効したと伝えている 。
米側はなお、停戦は続いているとの立場を崩していない。ピート・ヘグセス国防長官は5月5日、米イラン停戦は当面「確実に保たれている」と述べ、ホルムズ海峡での米国の船舶護衛は停戦とは別の一時的な作戦だと説明した 。その後の衝突を受けても、ドナルド・トランプ大統領はABCに対し、停戦はなお「有効」だと述べた。ただし、Times of Israelはこの交戦を、1カ月続く停戦に対するこれまでで最も深刻な試練と位置づけている 。
ここで重要なのは、停戦が形式上は生きていても、現場での衝突が積み重なれば実態としては不安定化するという点だ。最近の報道は、停戦開始後で最大規模の火種がホルムズ海峡周辺に集中していると伝える一方、米イラン双方はなお合意を模索しているともしている 。
外交面での焦点は、米国の最新提案にイランがどう答えるかだ。米当局者は5月8日、湾岸地域で戦闘が再燃する中でも、危機終結を目指す提案に対してイランが同日中にも返答する可能性があると見ていた 。しかし5月9日の報道では、テヘランがトランプ政権の最新案を受け入れられるかどうかは明らかにしていないとされた 。
つまり、和平案は否定されたわけではないが、合意に至ったわけでもない。イランの返答が保留されている限り、海上で起きる一つひとつの事件が、双方の政治判断に影響を与えかねない 。
ホルムズ海峡は、ペルシャ湾と外洋をつなぐ国際海運上の要衝だ。現在ここが停戦の急所になっているのは、米国とイランが同じ海域でまったく異なる「線引き」をしているためだ。
イランは、米国が海峡に干渉しようとすれば停戦違反とみなすと警告している。一方、トランプ氏は、米国が封鎖された水路を通る船舶の護衛を始めると述べた 。米当局者はこの護衛活動、プロジェクト・フリーダムを、商船を海峡内で誘導するための停戦とは別の作戦だと位置づけている 。
イランのアリ・アブドラヒ少将は、外国軍、とりわけ米軍がホルムズ海峡に接近または進入しようとすれば攻撃対象になると述べた。さらに商船やタンカーにも、調整なしに通航しないよう警告している 。
これは、商業航行を守るとして船舶を護衛する米国の動きと正面からぶつかる 。米国にとっては防御的な航行支援でも、イランにとっては海峡への干渉、つまり停戦違反になり得る。この認識のずれが、現場の偶発的な衝突を一気に政治問題化させる。
戦争研究所(ISW)は5月4日、イランがホルムズ海峡で商業航行の自由を確保しようとする米国の動きに対抗し、同海峡に対する「支配」を示そうとしていると分析した 。ISWはその動きとして、商船、アラブ首長国連邦(UAE)の石油インフラ、オマーンの民間建物に関わる攻撃や混乱を挙げている 。
そのためホルムズ海峡は、単なる海軍同士の接触点ではない。海峡へのアクセスは商業航行と地域の安全保障に直結するため、そこでの圧力はそのまま和平交渉の材料になり得る 。
最近の衝突は、ミサイル、ドローン、小型艇、タンカー、商船、米駆逐艦、湾岸諸国のインフラが絡む複雑なものになっている。5月8日の報道では、海峡付近を航行していた米海軍の駆逐艦3隻がミサイル、ドローン、小型艇による攻撃を受けたが、米当局者は米艦艇に被害はなかったとしている 。
別の報道では、米軍がイラン軍との交戦後、イランの石油タンカー2隻に発砲して航行不能にしたとされ、UAEは新たなイランのミサイル・ドローン攻撃を報告した 。CBSも、イランがプロジェクト・フリーダムで保護されていた船舶に向けてミサイルを発射し、トランプ氏が作戦を妨害しようとしたイランの小型艇7隻を米軍が破壊したと述べた、と伝えている 。
問題は、双方が全面戦争を望んでいないとしても、現場での小さな交戦が積み重なれば、どこかで「停戦は失敗した」と判断されかねないことだ 。
今後の焦点は大きく三つある。
第一に、イランが米国の提案にどう答えるか。米側は5月8日前後の返答を見込んでいたが、その後の報道では、テヘランが受け入れ可能かどうかを示していない 。
第二に、ホルムズ海峡での行動ルールだ。イランは米国の行動を停戦違反とみなす可能性を示し、米国は商船護衛を停戦とは別の一時的作戦だと説明している 。
第三に、衝突が米イラン二国間だけに収まらなくなっている点だ。商船、イランのタンカー、米艦艇、UAEが関わる攻撃や事件が報じられており、別の地域主体や民間標的がエスカレーションの連鎖に巻き込まれるリスクが高まっている 。
米イラン停戦は、書面上はまだ生きている。米国はイランの最新提案への返答を待ち、米当局者も停戦は有効だと述べている 。しかし実際には、ホルムズ海峡が双方のレッドラインを試す場所になっている。ここで衝突が抑え込まれれば停戦は補強されるが、次の一件が「違反」とみなされれば、脆い停戦は一気に崩れかねない 。