エストニアのケースは、EUの「相互承認」の枠組みがテスラFSDの展開を加速させている好例です。
同国は、160万km以上に及ぶ走行テストと数千もの実走行シナリオを経てオランダRDWが発行した型式認証を、そのまま受け入れました。これによりエストニア国内の対象車両に対し、無線アップデート(OTA)を通じたFSDの順次提供が開始されます。テスラの欧州公式アカウントもX(旧Twitter)で「FSD Supervised now approved in Estonia. Rollout will begin soon.(FSD Supervisedがエストニアで承認されました。まもなく提供を開始します)」と投稿しています
。
この仕組みは、大規模な車両テスト基盤を持たず、高度運転支援システムを認可したい国にとって、時間とコストを大幅に節約できる「ファストトラック(優先的な道)」として機能しています。
しかし、各国ごとの承認が積み重なっても、EU全域での単一市場認可には直結しません。FSDがEU全27カ国で有効となるには、オランダRDWが、自動車の型式認証を管轄する欧州委員会の自動車技術委員会(TCMV) での投票を勝ち取る必要があります。
投票で求められるハードルは明確です。「加盟国の55%以上、かつEU人口の65%以上」という 「特定多数決」 での賛成が必要です。
2026年5月7日、オランダ当局は第117回TCMV会合で承認根拠を説明する20分間の枠を与えられました。しかし、この会合の議題に投票は含まれていませんでした。次のTCMV会合は7月と10月に予定されており
、テスラが掲げる「2026年夏までのEU全域展開」という目標は、極めて楽観的な見通しと言わざるを得ません。
2026年5月初旬、ロイター通信が行った調査で、オランダを含むスウェーデン、フィンランド、デンマーク、ノルウェーの規制当局が交わした内部メールが明らかになりました。これらの国々は、FSDの安全設計に対し、具体的な技術的懸念を表明しています。その主な内容は以下の3点です。
1. 速度超過
「システムが制限速度を超えて走行する傾向があること」。スウェーデン運輸局の調査官ハンス・ノルディン氏は4月15日のメールで、テスラがFSDに速度超過を許可していることを知り「非常に驚いた」と記しています。
2. 凍結路の安全性
「冬季の道路が厳しい北欧で、主にカリフォルニアの晴天条件下で訓練されたシステムが、雪や凍結路面、そして二輪車を安全に扱えるのか」。ノルウェー公共道路局ははっきりと「はるかに慎重なアプローチを取っている」と表明し、承認には「北欧の冬道での安全性の証明」が必要だと述べています。
欧州市場での価格は、一括購入の場合で約7,500ユーロ~9,900ユーロ(約120万円~160万円)、月額サブスクリプションは約99~199ユーロが一部市場で提供されています。テスラは、2026年夏にドイツ、フランス、イタリアでの展開を目標に掲げていますが、これら主要市場での正式な認可はまだ下りておらず、今後のTCMV投票と各国当局の動向に委ねられています。
相互承認の仕組みを活用し、FSDは短期間で3カ国への導入を果たしました。しかし、真にEU単一市場への扉を開くTCMVでの投票は見通せず、「速度」「凍結路」「運転者の行動」という具体的な安全指摘を掲げる北欧の規制当局が、強固なチェック機能を果たしています。
2026年夏の大規模展開というテスラの青写真に対し、現実の規制スケジュールはまだ大きく折り合っていない、というのが現時点での正確な情勢です。
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