決勝レースの折り返し地点を過ぎた早朝、上位陣に相次いで試練が訪れた。
残り6時間を目前にした19時間目、LMGT3クラスのマシンが大クラッシュを喫し、長期にわたるセーフティカー導入が発令された。この介入は、各車が24時間かけて築き上げてきたギャップを白紙に戻し、ハイパーカークラスの勢力図を振り出しに戻した。
それまで4番手を走行していたトヨタ7号車にとって、これこそが待ち望んでいた瞬間だった。セーフティカーが解除されると同時に、小林可夢偉が驚異的な集中力を発揮。連続してファステストラップを叩き出し、ライバルを次々とオーバーテイクしていった。残り3時間の時点で、ついに7号車は首位の座を奪取し、レースの主導権を握ったのである。
セーフティカーというランダム要素が大きな転機となったのは間違いないが、最終結果は長期戦略の積み重ねでもあった。
2026年のル・マンは、トップを走る全てのメーカーにとって、重い意味を持つレースだった。
トヨタは、2022年以来となる4年ぶりの総合優勝を狙っていた。2016年の「あと3分の悲劇」から10年。あの悪夢を乗り越え、2018年から5連覇を達成した「ル・マンの盟主」が、フェラーリの3連覇という新たな屈辱を経て、ついに6度目となる王座奪還を果たした。これは、大幅に改良を施した「TR010 Hybrid」の初勝利でもある。
BMWは、自らの歴史を塗り替えようとしていた。BMWがル・マンを制したのは、わずか1度だけ。F1のミカ・ハッキネンが2度目のワールドチャンピオンを獲得した1999年のことで、実に27年もの長いブランクがあった。今大会では、姉妹車の15号車WRTがBMWとして史上初の総合ポールポジションを獲得
。その15号車は残り1時間で無情のリタイアとなったが、20号車による2位フィニッシュは、バイエルンのエンジニアたちが次なる勝利へ確かな手応えを得た証左となった
。
キャデラックは、総合優勝という、これまで手の届かなかった夢に挑んでいた。ワークス活動として、まだ誰も見たことのないアメリカントップカテゴリーの栄冠を目指したが、「たった2ドルの部品」によるリタイアで有力な1台を失い、もう1台も終盤の首位走行から4位に後退するという苦い結末を味わった。
最終的なトップ4の結果は以下の通り。
注目すべきは、表彰台争いからフェラーリの姿が完全に消えたことだ。3連覇を狙ったディフェンディングチャンピオンの50号車は、19時間目の早い段階でレースを終えたことが確認されている。これは一つの時代の終わりを告げるものであり、WEC世界耐久選手権の勢力図が新たな局面を迎えた瞬間だった。