対するNeoは「MacOS対応タイトルに制限される」と断じ、AMDの自社サイトでは「比類なき互換性」と対比させている 。このキャンペーンは、CPUやGPUの純粋な性能比較をしているわけではない。その矛先は完全に「エコシステムの互換性」、つまり主要なPCゲームがx86アーキテクチャのWindows向けに開発され、ARMベースのApple SiliconやmacOSには移植されないという単純な現実に向けられているのだ 。
ただし、この比較には批判もある。AMDが基準とした「上位20タイトル」の選定基準や、Metalベースで動作するmacOSタイトルが存在する場合の「ネイティブ」の定義が不明瞭な点だ 。さらに、比較対象のRyzen 5 220自体が日常業務や軽いメディア編集向けのエントリーチップであり、純粋なハードウェア性能対決というより、「ソフトウェア資産を盾にしたいじめ」に近いとの声も上がっている 。
「Macでゲームはできない」という批判は今に始まったことではない。インテルはアップルがMacを自社製シリコンに切り替え始めた2021年以降、タッチスクリーン非搭載やゲームライブラリ不足を揶揄する同様のキャンペーンを展開してきた 。AMDの今回の動きはその系譜を継ぐものだが、明確な違いは「価格訴求力」にある。
ASUSのCFOは2026年3月、マイクロソフトやインテル、AMDを含むPC業界全体がMacBook Neoの攻撃的な価格設定への対応を検討していると公式に認めた 。今回のAMDの広告は、その業界全体の焦りから生まれた具体的な一手と読める。
しかし、この批判はNeoの本質を見誤っている。アップルはこの端末を「学生や日常使いのユーザー向け」に設計しており、ゲーミングリグとして売ってはいない 。ターゲットは可能な限り低価格で「Mac体験」を求める層であり、ネイティブゲームの少なさやクラウドストリーミングへの依存は、ターゲットにとって許容可能なトレードオフなのだ 。
Neoの最大の特徴は、Mac専用のMシリーズチップではなく、iPhone 16 Proと同じ「A18 Pro」チップを搭載している点だ 。この大胆な選択により、599ドルという破格の価格を実現しつつ、高いシングルコア性能と電力効率を両立している。
主な仕様は以下の通り :
ファンレス設計と5コアGPUは、持続的な高負荷時に性能を維持できないというゲームにおける決定的な弱点となる 。また、10Gbps対応のUSB-Cポートが1つしかないため、グラフィック性能を補う外部GPU(eGPU)の接続も事実上不可能だ 。
独立系メディアによるテスト結果は、AMDの主張を裏付けると同時に、その厳しさをやや和らげる内容だ。
ポジティブな面では、軽量・最適化されたタイトルでは健闘する。『Death Stranding』や『Control』は、MetalFXアップスケーリングと中~低設定での調整により、30~50fpsで動作した 。『Minecraft』は1080pで設定に応じて50~300fpsと、スペックシートから予想される以上の結果を残した 。
しかし、重量級AAAタイトルに直面すると限界はすぐに露呈する。『Cyberpunk 2077』は最低設定・720pですらフレームタイムが不安定で、まともにプレイできるレベルではなかった 。A18 Proがハードウェア的に対応するレイトレーシングを有効にすると、『Control』は20~30fpsまで低下した 。
さらに深刻なのは容量問題だ。256GBの基本モデルでは、最新の大規模ゲームを3本インストールしただけで空き容量が約20GBになったとの報告もある 。外付けSSDからゲームを起動するという回避策は存在するが、「シンプルさ」を売りにするこの製品の魅力を大きく損なってしまう。
一方、一般的なコンピューティング性能では輝きを放つ。ブラウザベンチマーク「Speedometer 3.1」では、同価格帯のWindowsノートより60%から2倍高速で、Geekbench 6のシングルコア性能でも予算カテゴリーをリードした 。マルチコアや持続的なGPU負荷では、アクティブ冷却を持つWindows競合機が優位に立つ 。
AMDがここまで露骨な比較広告を打った背景には、Neoの圧倒的な販売実績がある。
IDCのデータによると、2026年第1四半期の出荷台数は110万台に達し、これは近年のMacデビュー四半期として最強クラスの記録だ 。著名アナリストのミンチー・クオ氏は、2026年の出荷予測を当初の500万台から1000万台へ倍増修正したと報告している 。比較として、TrendForceは当初、年間400~500万台と予測していたが、これも今では保守的に見える 。
ティム・クックCEOは、発売週が「Macにおける新規顧客獲得の史上最高記録」を達成したと明言し、macOSの市場シェアは13.2%に達し、MacノートPC出荷の前年比成長率は7.7%と予測された 。
1099ドル(約12万円)から始まるMacBook Airと比較して約45%も安い599ドルという価格は、アップルがこれまでノートPCを展開してこなかった新たな価格帯を切り開いた。これにより、教育市場を支配するChromebookやエントリーWindows機と真っ向から競合する形となったのだ 。
今回のAMDのキャンペーンには二重の意味がある。
表面的にはシンプルな商品比較だ。「ゲームをしたいなら、この価格帯ではウチのを買ってください」というメッセージである。しかし、Neoが他のすべてのMacを販売台数で上回った大ヒット四半期の直後というタイミングは、AMDが「599ドルのノートPCが提供すべき価値とは何か」という議論の枠組みそのものを変えようとしている可能性が高い。Neoの市場シェアがこれ以上拡大する前に、予算重視の購入者を再びWindows陣営に呼び戻そうとしているのだ 。
この構図は、インテルの「Go PC」からAMDの「比類なき互換性」まで、チップメーカーがアップルの弱点を選んで物語を紡ぐ、長年の伝統に則っている 。「ゲーム」こそが、Macエコシステムが未だに埋められない最大のギャップであり、今や数百万の手にNeoが渡ったことで、その隙を突く動機はかつてないほど高まっている。