ジェシー・ポラック氏の主張の核心は、取引単位の動きではなく、Coinbaseのバランスシート上の規模にある。同社は、およそ11万5,000〜15万1,000ETHを保有していると報じられており、専用のデジタル資産トレジャリー企業を比較対象から外せば、他の機関投資家を大きく上回るというのがポラック氏の説明だ。34
ただし、「桁違いに最大」という表現は、全機関の実質的なETH保有量を独立監査した公的ランキングに基づくものではない。公開情報には、各機関の受益所有権を網羅して比較できるデータベースは確認されていない。そのため、現時点ではポラック氏によるCoinbaseの相対的な規模の説明として捉えるのが適切だ。510
「非DAT型」とは何か
DATは、**Digital Asset Treasury(デジタル資産トレジャリー)**の略称だ。企業の準備資産を暗号資産の保有に重点配分する、いわゆる専門的な暗号資産トレジャリー企業を指す。
ポラック氏の比較では、こうした専門企業を除外し、暗号資産事業を主目的としない上場企業や金融機関など、より幅広い事業の一部としてETHを保有する主体に焦点を当てている。
この基準で見ると、Coinbaseの自社保有ETHは約11万5,000〜15万1,000ETH。報道時点の価格では、およそ3億ドル相当とされている。34 ポラック氏は別の投稿で、Coinbaseが市場の上昇局面と下落局面を含め、長年にわたり約15万ETHを保有してきたとも述べている。25
もっとも、この保有量は報道に基づく推計であり、「他社の10倍規模」という比較を裏付ける完全かつ独立検証済みの所有データが存在するわけではない。
CoinbaseのETHと顧客のETHは別物
暗号資産取引所のウォレットに表示される残高は、経済的な性質の異なる複数の資産を含む可能性がある。Coinbaseの規制当局向け開示では、同社が所有する暗号資産と、顧客のために保管する暗号資産が区別されている。
同社自身の保有資産は、主に次のように整理される。
- 投資用暗号資産:企業のトレジャリーまたは投資目的で保有する資産。戦略的なエクスポージャーや将来の値上がりを目的とする。
- 業務用暗号資産:流動性、決済、ステーキング、ネットワーク手数料など、事業運営に使われる資産。
一方、顧客から預かったETHは、顧客に代わって保管されるカストディ資産だ。顧客資産と、それに対応する顧客向けの債務・義務として表示されるため、Coinbaseの企業トレジャリーに含めることはできない。36
この区別は、ブロックチェーン上の分析と財務諸表の分析が異なる印象を与える理由でもある。オンチェーンデータでは、Coinbaseが管理するアドレスへ大量のETHが移動しているように見える場合がある。しかし、企業の開示は、自社資産と顧客のために保管する資産を区分することを目的としている。CoinbaseのSEC提出書類は、この違いを検証するための公開情報の枠組みを提供している。2628
つまり、Coinbaseが管理するアドレスの残高が大きいからといって、そのアドレスに関連するETHをすべてCoinbaseが自社資産として所有しているとは限らない。
Baseのシーケンサー手数料をめぐる論争
論争が強まった背景には、Coinbaseが立ち上げたイーサリアムのレイヤー2、Baseがある。Baseの利用規約では、シーケンサーはCoinbaseが運営するノードであり、Base上の取引を受け付け、記録し、報告する役割を担うと説明されている。17
ブロックチェーン研究者やコミュニティの参加者は、Baseのシーケンサー手数料収入がCoinbaseのカストディへ移されていると指摘してきた。過去の報道では、Baseのシーケンサー用ウォレットからCoinbaseへETHが定期的に送られており、240ETHを含む取引も確認されたとされている。2223
ただし、ここには重要な留保がある。オンチェーン上で送金を確認できても、その後にCoinbaseがETHを売却したのか、カストディに移した資産がどう扱われたのかまでは、送金記録だけでは判断できない。2223
その後、一部の批判は、CoinbaseまたはBaseがETH建ての収益を別の資産、特にビットコインへ交換しているのではないかという疑念に発展した。批判側は、Coinbaseがイーサリアムの利用拡大から利益を得ながら、ETHに売り圧力を加えている可能性があると見る。一方、Coinbase側は、個別ウォレットの移動だけで企業全体のトレジャリー方針を判断すべきではないと反論している。
BTCへの交換疑惑は、提供された報道におけるコミュニティの主張であり、Coinbaseが企業としてETHの純保有量を継続的に減らしていたことを示す決定的な証拠ではない。4618
Coinbaseが示すイーサリアムへの貢献
ポラック氏の反論は、CoinbaseのETH保有量だけにとどまらない。同氏は、Coinbaseがイーサリアムのインフラを利用し、開発やエコシステムの拡大にも関わっている点を強調している。
- Base:Coinbaseが育成したイーサリアムのレイヤー2。より低コストなオンチェーンアプリケーションの環境を提供することを目指している。4955
- EIP-4844:ロールアップ向けのデータ可用性コストを下げる「ブロブ」方式を導入したアップグレード。CoinbaseやBaseの関係者は、この取り組みへの貢献を挙げている。5154
- USDC:ポラック氏の反論では、CoinbaseがUSDCの創設に関わったことも、イーサリアム経済圏への広範な貢献の一つとして示されている。4446
- Baseのステージ1到達:Baseは、許可不要のフォールトプルーフと、アップグレードの一部を監督するセキュリティー・カウンシルを導入し、ステージ1の分散化に到達したとされる。これにより、検証や一部のネットワーク管理でCoinbaseへの依存が低下した。485053
これらの事実は、Coinbaseがイーサリアムと経済的・技術的に深く結びついているという主張を支える。ただし、それだけでBaseの手数料収入がETHとして維持されたのか、売却されたのか、別の資産に交換されたのかが分かるわけではない。
ジェイソン・チャスキン氏の擁護と「道徳化」への反発
イーサリアム財団でアプリ関係を担当するジェイソン・チャスキン氏は、Coinbaseへの批判は焦点を外していると擁護した。チャスキン氏の見方では、Coinbaseは単にETHを買い増す企業ではなく、イーサリアムを利用する大口顧客であり、エコシステムの主要参加者でもある。721
ポラック氏も、イーサリアムの利用者や活動を「道徳化」することに異議を唱えた。同氏の主張は、ETHを保有しているか、ETHを売却したか、ビットコインを利用しているか、利益を上げる事業を運営しているか、イーサリアム上でレイヤー2を構築しているかといった点を、エコシステムの正当な参加者かどうかを測る道徳的なテストにすべきではない、というものだ。25
もちろん、これは批判を無意味にするものではない。より有効な検証方法は、次の3点を切り分けることだ。Coinbaseが開示した自社トレジャリーの保有状況、業務用または顧客資産の移動、そしてBaseの手数料モデルが生む経済的インセンティブである。単一の取引だけを見て、企業全体の戦略を断定するべきではない。
なぜCoinbaseは特に厳しく見られるのか
Coinbaseは米国で上場する暗号資産取引所であり、企業としての暗号資産エクスポージャーが、非公開のトレーディング会社や実態の見えにくいトレジャリー企業よりも可視化されやすい。SEC提出書類、投資家向け資料、財務報告を通じて、株主やアナリストは重要な保有資産、評価損益、リスク、資本配分を検討できる。262728
ただし、公開開示にも限界はある。提出書類がすべてのウォレットを特定するとは限らず、業務上の資産移動がリアルタイムで公開されるわけでもない。また、企業のETH保有量が一定範囲にあるという報告は、CoinbaseがETHを一度も売却していないことを意味しない。反対に、Coinbaseのカストディへ送金されたことだけで、Coinbaseがその資産を売却した、あるいは自社トレジャリーから出したと証明することもできない。
したがって、ポラック氏の主張を最も慎重に読むなら、こうなる。CoinbaseはDAT企業を除けば、非常に大きな自社保有ETHを維持している。その規模を踏まえると、「CoinbaseがETHを一方的に投げ売りしている」という単純な説明には無理がある。
一方で、同社のトレジャリー方針がETH、ビットコイン、その他の資産のどれを重視しているのかを判断するには、今後も財務諸表と取引レベルのデータを継続的に確認する必要がある。