国際ブッカー賞は、英語に翻訳され英国またはアイルランドで出版された長編小説・短編集の中で最も優れた作品に贈られる賞で、賞金5万ポンドを作者と翻訳者が折半する仕組みになっている。
『台湾漫遊録』はもともと2020年に台湾で中国語で出版された小説。英語版はリン・キングの翻訳で刊行され、**2024年には全米図書賞(翻訳文学部門)**も受賞している。
その後、2026年に国際ブッカー賞を受賞し、台湾文学と中国語文学が国際的な翻訳文学の舞台で大きな存在感を示す結果となった。
物語の舞台は1930年代、日本統治時代の台湾。
主人公は長崎出身の若い日本人小説家青山千鶴子(Aoyama Chizuko)。1938年、彼女は日本の植民地政府の招きで台湾を訪れる。
しかし、彼女の関心は公式行事や宣伝ではなく、島の本当の生活と食文化を体験することだった。
旅の案内役となるのは、台湾人女性の通訳兼ガイド。二人は台湾各地を巡りながら、
旅を続けるうちに、二人の間には微妙で複雑な感情が芽生える。物語は、旅と食を軸にしながら、植民地の権力関係の中で生まれる女性同士の関係を描く。
この小説の最大の特徴は、多層的な語りの構造にある。
作品は、
「日本人女性作家が書いた旅行回想録が後に発見され、それを翻訳した本」
という形で提示される。
つまり読者は、あたかも
を読んでいるかのように感じる。しかし実際には、台湾の作家が中国語で書いた現代小説である。
この構造により、作品は「翻訳」という行為そのものを物語のテーマへと引き込む。
といった問題が、物語の形式そのものから浮かび上がる。
『台湾漫遊録』はしばしば**“食の旅を通じたポストコロニアル小説”**と評される。
主人公の青山は「驚くほどの食欲」を持つ人物として描かれ、物語には台湾各地の料理や食文化が数多く登場する。
しかし、こうした食の描写は単なる旅行記ではない。
そこには次のようなテーマが織り込まれている。
審査員長の作家ナターシャ・ブラウンは、この小説が問いかける核心を次のように表現した。
「愛は権力の不均衡を乗り越えられるのか?」
2026年の国際ブッカー賞は5月19日、ロンドンのテート・モダン美術館で発表された。
審査員はこの作品を
と評価している。
賞金は5万ポンドで、国際ブッカー賞の規定により
がそれぞれ2万5000ポンドずつ受け取る。
『台湾漫遊録』は単なる歴史小説ではない。
台湾の歴史、言語政治、個人的な感情を一つの物語に織り込みながら、翻訳と語りの構造そのものを使って歴史の書かれ方を問い直す作品である。
また今回の受賞は、台湾文学と中国語文学が世界文学の翻訳市場で大きな注目を集める契機ともなった。
植民地の記憶、言語の境界、そして二人の女性の関係を通して、この小説は「物語は誰の言葉で語られるのか」という問いを読者に投げかけている。