そのため、Polyglotが扱うのは一般的な英語ではなく、シンガポールの行政や社会に根ざした情報です。開発チームは、次のような例を挙げています。
行政翻訳では、文法だけでなく、地名・制度・政策名が現地でどのように理解され、使われているかまで考慮する必要があります。
試験期間中に mddi.gov.sg を訪れると、ページ上部にPolyglotを案内するバナーが表示されます。そこから beta.mddi.gov.sg に進み、画面右上のドロップダウンメニューで英語、中国語、マレー語、タミル語のいずれかを選択します。
試験運用で重視されるのは、内部テストの結果だけではありません。実際の利用者が、言語や政策分野、ウェブページの構成の違いによってどのような問題に直面するのかを把握し、翻訳品質の改善につなげるためです。
Polyglotは翻訳作業の効率と情報へのアクセス性を高めるためのツールであり、AIが生成した文章をそのまま正式な公文書として扱うものではありません。
また、ページにはAI翻訳であることを示す注意書きが表示されます。大規模言語モデルは、もっともらしく見える誤りを生成する可能性があるためです。利用者にとっては内容を理解する助けになりますが、重要な手続きや判断の際には、誤りのない確定版だとみなさないよう促す役割があります。
つまりPolyglotは、「AIが自動翻訳して終わり」という仕組みではありません。AIによる生成、人による確認、利用者からの報告を組み合わせる試験的な運用です。
設計上の特徴は、特定のウェブサイトやコンテンツ管理システムに依存しないことです。政府機関はフロントエンドに簡単なスクリプトで翻訳ウィジェットを組み込み、翻訳の管理は別の管理ポータルで行えます。サイトごとに大がかりなシステム連携を構築する必要がない設計です。
この方式なら、異なる仕組みで作られた政府サイトにも導入できる可能性があります。ただし、より多くの機関へ拡大できるかは、試験運用での翻訳品質や利用者の反応次第です。現時点で、全面導入の具体的な時期は発表されていません。
政府の情報発信では、漢字1字やスペル1つの誤りが文章の意味を変え、政策や公共イベントへの理解に影響することがあります。
報道によると、2017年の「Speak Mandarin Campaign(華語を話そう運動)」では、演台の標語で「読む」を意味する漢字の代わりに、「不敬」や「軽蔑」を意味する漢字が使われました。また、2020年のナショナル・デー・パレードの楽曲「My Singapore」では、タミル語の歌詞に字画やスペルの問題があり、一部が理解しにくくなりました。「友人」や「兄弟姉妹」に当たる語にも誤りがあったとされています。
これらは、人間による翻訳なら誤りが起きないという意味ではありません。しかし、政府の多言語発信には、継続的な用語管理、専門家によるチェック、そして誤りを修正する仕組みが欠かせないことを示しています。Polyglotは、各機関が同じ課題を個別に解決するのではなく、再利用可能なデジタル基盤にまとめようとする試みです。
AIがシンガポールの公式用語に沿った翻訳をまず素早く作成し、そこに職員や利用者の確認を加えられれば、3つの言語による情報提供をより迅速に行える可能性があります。
母語や英語以外の公用語で情報を読むことに慣れた住民、とりわけ高齢者にとっては、政府情報やデジタルサービスへのアクセスを妨げる言語の壁を下げる効果も期待されます。翻訳を「追加サービス」として扱うのではなく、言語を選べること自体をウェブサイトの標準機能にするという発想です。
ただし、Polyglotの長期的な価値は、翻訳の正確性をどこまで高められるか、人による確認を継続できるか、利用者のフィードバックが実際の改善につながるかにかかっています。