Qivalisは、欧州の銀行コンソーシアムが支援するアムステルダム拠点の事業体だ。ユーロと1対1で裏付けられた、規制準拠の電子マネートークンを発行し、利用先を銀行参加者だけの閉鎖型ネットワークではなく、公開Ethereumブロックチェーンとする計画を掲げている。
6
12
狙いは一般的な個人向け暗号資産というより、オンチェーン金融におけるユーロ建ての決済・清算インフラだ。取引可能な市場、ウォレット、トークン化資産と接続しやすい公開チェーンを選ぶことで、国境をまたぐユーロ決済の共通レールを構築しようとしている。
まず押さえるべき点:まだ発行・提供は始まっていない
Qivalisは、オランダ中央銀行(De Nederlandsche Bank、DNB)に電子マネー機関(EMI)としての認可を申請している。Qivalis自身は、まだ認可を得ておらず、現時点で電子マネーを発行していないとしている。
6
28
開始目標は2026年後半だが、確定したローンチ日ではない。DNBの認可が発行の前提条件となる。
6
28
計画中のトークンはMiCA(EUの暗号資産市場規制)準拠かつユーロで1対1に裏付けられるものと説明されている。この構想では、監督・認可の枠組みと、額面での償還を可能にすることが価値提案の中核となる。
12
28
9行で始まり、37金融機関へ拡大
構想は2025年9月、次の9行によって始まった。
Banca Sella、CaixaBank、Danske Bank、DekaBank、ING、KBC、Raiffeisen Bank International、SEB、UniCredit。
25
2025年12月にはBNPパリバが加わり、その後DZ BANKとBBVAも参加。2026年2月時点で参加銀行は12行となった。
25
20
2026年5月には新たに25金融機関が加わり、コンソーシアムは欧州15か国・37金融機関へ拡大した。追加参加にはABANCA、ABN AMRO、AIB、Banco Sabadell、Bank of Ireland、Erste Group、Groupe BPCE、Intesa Sanpaolo、Nordea、Rabobank、Swedbankなどが含まれる。
12
想定される用途:24時間稼働のユーロ建て決済・清算
Qivalisが想定するのは、営業時間や国ごとの仕組みに制約されがちな従来の送金・清算プロセスを補完する、機関投資家・企業向けの利用だ。主なユースケースとして、次を挙げている。
- オンチェーン決済と企業の資金管理:企業向けの、常時利用可能なユーロ送金・決済
- 貿易・国際金融:複数のコルレス銀行を経由する形への依存を抑えうる、貿易関連資金フローのユーロ建て直接決済
- プログラム可能な支払い:あらかじめ定めたルールや自動処理と連動する決済
- トークン化資産の決済:トークン化証券などで、資産の移転と支払いを同時に実行するDVP(受渡し対支払い)取引
12
もっとも、これらはいずれも計画段階の用途であり、稼働中のサービスではない。実用性は認可、技術実装、ウォレットや市場参加者による採用、そして同トークンで決済できるトークン化資産の広がりに左右される。
なぜ銀行専用チェーンではなく公開Ethereumなのか
公開Ethereumを選んだ点は重要だ。銀行コンソーシアムだけが利用できる許可型ネットワークではなく、既存のオープンなブロックチェーン環境にユーロトークンを置くことになる。
6
Qivalisにとっての利点は、Ethereum上にすでにあるウォレット、取引所、分散型金融(DeFi)の流動性、トークン化資産の活動と相互運用しやすいことにある。Ethereumはユーロ建てステーブルコインの最大の基盤でもあり、2026年9月時点で供給量の約**69.4%**を占めたとの報告がある。ユーロ建てステーブルコインはおよそ20のネットワークで展開されている。
36
41
もちろん、Ethereumで発行するだけで利用が広がるわけではない。それでも、既存のユーロ建てオンチェーン流動性と周辺インフラが集中する場所を選ぶことには、戦略上の合理性がある。
参入する市場は成長中だが、ドル建てには大差
ユーロ建てステーブルコイン市場は拡大している一方、ドル建てトークンと比べればまだ小さい。2026年9月7日時点のユーロ建てステーブルコイン供給量は8億4,810万ドルと報告され、年初の6億9,170万ドルから約**1億5,600万ドル(22.6%)**増えた。
33
市場の集中度も高い。CircleのEURCが供給量の約62.6%、ソシエテ・ジェネラルのデジタル資産部門SG-FORGEによるEURCVが約19.6%を占め、両者で市場の82%超に達した。
33
一方、ドル建ては世界市場で圧倒的だ。2026年5月の推計では、USDTとUSDCの合計は3,221億ドルの世界ステーブルコイン市場のうち2,659億ドルを占めた。これに対し、主要なユーロ建て2銘柄は合計で約5億7,200万ドルだった。
39
MiCAを「制約」ではなく基盤として捉える
Qivalisの戦略の核には、EUで共通化されたMiCAの規制枠組みがある。監督を受ける発行体、裏付け資産と償還に関する明確な期待値を備えたユーロ建て資産であれば、国ごとに分断された私的ネットワークの寄せ集めよりも、規制下の金融機関にとって採用しやすい可能性がある。
つまりQivalisの構想は、オンチェーン決済、清算、デジタル資産取引のための欧州共通インフラを目指すものだ。その成否を分ける最初の関門は明確である。DNBの認可を取得し、37金融機関による構想を、実際に発行・利用できるユーロトークンへ移せるかどうかだ。
6
12