全固体電池のニュースでは、発表された目標年だけを見ると「まもなくEVに搭載される」ように感じられます。しかし、LGエナジーソリューション(LGES)の見方は、量販EVへの本格普及にはなお大きな壁があるというものです。
同社は、全固体電池がまずスマートフォンやドローンなどの小型・特殊用途に採用され、その時期は量販EVよりおよそ10年早くなる可能性があると説明しています。理由は、材料の性能そのものよりも、大型セルを安定して大量生産することにあります。114
最大の課題は「大型セルの量産」
全固体電池は、従来のリチウムイオン電池で使われている液体電解質を固体材料に置き換える電池です。エネルギー密度の向上や安全性の改善が期待されていますが、研究室で高い性能を示すことと、自動車向けに量産できることは別の問題です。
LGES北米法人のロバート・リー社長は、大規模生産が全固体電池の核心的な課題だと指摘しました。小型セルなら、必要な材料が少なく、製造上のばらつきも抑えやすい一方、EV用セルは大型で、生産量も桁違いです。製造工程全体で均一な品質を維持しなければなりません。114
つまり、小型電子機器で動作する全固体セルが、そのまま大量生産のEV用バッテリーパックになるわけではありません。自動車向けには、繰り返し生産できる品質、長期耐久性、安全性、高い歩留まり、そして価格競争力を同時に証明する必要があります。
20億ドル超のランシング工場が示す現実路線
LGESが米ミシガン州ランシングに新設した工場は、同社の短期的な戦略を映す存在です。敷地面積は226エーカーで、2022年以降の投資額は20億ドルを超えています。フル稼働時には、年間35GWhを超える電池セル生産能力を目指します。347
同工場では、定置型エネルギー貯蔵システム向けに大型のリン酸鉄リチウム(LFP)セルを生産する一方、電気自動車向けにはニッケル・マンガン・コバルト(NMC)セルを手がけます。NMCセルは、トヨタが2027年に投入を予定するハイランダーEVを支える見込みです。47
これは、全固体電池への即時転換ではなく、現在の設備とサプライチェーンで製造できるリチウムイオン電池を拡大する動きです。次世代電池が研究、試験生産、検証の段階にある間も、実際の市場では量産可能な技術が求められます。
全固体電池を待たずに進む電池の改良
LGESと提携企業は、既存のリチウムイオン技術を改良する取り組みも進めています。
ゼネラルモーターズ(GM)とLGESは、リチウム・マンガン・リッチ(LMR)と呼ばれる角形セルを米国で2028年から量産する計画です。生産前段階の製造は、それより早く始まる見通しです。将来の電動トラックや大型SUVへの搭載を想定し、一部用途では400マイル(約644km)を超える航続距離を目標にしています。373940
LGESはまた、ナトリウムイオン電池の2027年商用化も計画しています。ナトリウムはリチウムより入手しやすく、材料コストの低減、高出力性能、低温時の出力に利点があると同社は説明しています。用途としては、エネルギー貯蔵システムや、より低価格なEVなどが想定されています。23
こうした動きは、電池の進化が全固体電池だけではないことを示しています。LFPによる低コスト化、NMCによる高エネルギー密度、マンガン系化学の活用、新たなセル形状などを組み合わせれば、全固体電池を待たずにEVの価格や航続距離を改善できる可能性があります。
2027年の中国勢の計画はどう見るべきか
中国では、複数の電池メーカーや自動車メーカーが、2027年の全固体電池試験生産、路上試験、実証車の計画を発表しています。CATLやBYDに加え、吉利(Geely)、Farasis Energy、CALB、Gotion High-Techなども、パイロット生産や試験走行の目標と関連付けられています。4142
台湾のProLogiumは、フランス北部のダンケルクで全固体電池工場の建設を始めました。同社の計画では、まず初期生産を立ち上げ、その後に生産規模を拡大する段階的な展開が想定されています。大型設備で安定したセル生産を実現できるかを試す重要なプロジェクトです。43
ただし、「2027年に試験生産を始める」という発表は、量販車向けの本格的な量産を意味しません。試験ラインでは、検証用のセルを少量生産できます。しかし、それだけで高い歩留まり、低コスト、長寿命、安全性を満たしながら、大量の自動車用セルを供給できると証明されたわけではありません。
実証車の成功と市販化の間にある距離
自動車メーカーはすでに、全固体電池や半固体電池を搭載した試作車で技術検証を進めています。米Factorial Energyのセルは、メルセデス・ベンツのEQS試作車で使われました。2153
実際の車両環境で試すことは、電池の性能や耐久性を見極めるうえで重要です。一方で、試作車での検証と、誰もが購入できる量販モデルへの採用には大きな違いがあります。長期耐久試験、製造の再現性、部材の供給能力、メーカーと購入者の双方にとって成立するコスト構造が必要になるためです。
2020年代後半のEV市場への意味
LGESの発言を最も堅実に読み解くなら、「全固体電池がすべての用途で遠い」という意味ではありません。小型で高エネルギー密度の利点を生かせるスマートフォンやドローンなどでは、EVより先に限定的な商用化が進む可能性があります。一方、EVではセルが大型で、生産量が多く、故障や品質問題の影響も大きくなります。113
LGES自身も、黒鉛系全固体電池をEV向けに2029年に商用化する目標を掲げています。ほかの企業が2020年代末までに限定的な商用化や実証車の投入に到達する可能性もあります。192526
それでも、2020年代後半にEVを購入する人にとって、最も身近な進化は、全固体電池への突然の置き換えよりも、改良型リチウムイオン電池からもたらされる可能性が高いでしょう。LFP、NMC、マンガン系セルなどが、価格、航続距離、供給安定性を段階的に改善していくとみられます。
今後の発表を見る際に重要なのは、単なる「発売予定年」ではありません。大型セルの歩留まり、充放電サイクル寿命、安全性、コスト、そして大量生産車への採用契約がそろっているかを確認する必要があります。これらが同時に示されるまでは、「試験生産」は技術開発上のマイルストーンであって、全固体EVがすぐに一般化する証拠ではないと考えるのが妥当です。