開発者のBen Davis氏は、長期的なソフトウェア開発能力を測るDeepSWEから10タスクを選び、Ox Alphaをテストしました。報告によると、8問を通過し、結果は約80%。同じ限定的な比較では、Claude Fable 5が65%、GPT-5.6 Solが52%でした。
目を引く数字ですが、これを「公式DeepSWEで優勝した」と表現することはできません。DeepSWE v1.1は、91のリポジトリを対象にした113件のオリジナルかつ長期的なソフトウェア工学タスクで構成されています。今回の試験は、そのごく一部にすぎません。
結果を読む際には、次の制約も重要です。
当時確認できた公開リーダーボードでは、Claude Opus 5が73.6%、GPT-5.6 Solが72.7%、Claude Fable 5が69.7%でした。したがって、慎重な結論は「Davis氏の10タスク試験ではOx Alphaが非常に強かった」というものです。汎用的なコーディングモデルとして最強だったと証明したわけではありません。
有力な説は、Ox Alphaが智譜AI(Zhipu AI、ブランド名はZ.ai)のGLMモデルファミリーと関係しているというものです。根拠は企業による発表ではなく、モデルの挙動を比較する“フィンガープリンティング”です。
あるテストでは、25種類のプロンプトを使ってOx AlphaとGLM-5.3のトークン化を比較しました。その結果、固定的に追加される75トークン分を考慮すると、基礎となるトークン数が一致したと報告されています。別の動画テストでも、フレームのサンプリング、動画の長さに応じた処理、解像度の扱いなど、視覚トークンの挙動に一致点が見つかったとされています。
さらに、応答の文体、APIの挙動、音声入力への対応にも類似点があると報告されています。個々の手がかりだけなら、共通のラッパーや基盤インフラ、あるいは模倣によって説明できる可能性があります。しかし複数の特徴が同時に一致するため、分析者は智譜AIの統合マルチモーダルGLM系列と整合する証拠のまとまりだと見ています。
智譜AIが過去に「Pony Alpha」など、匿名またはステルス形式のモデル公開を行ったことも、状況証拠として語られています。ただし、それだけでOx Alphaの開発元が智譜AIだと証明されるわけではありません。
報道で扱われた期間、Ox Alphaの開発元を公に名乗った企業はなく、智譜AIも関与を認めていませんでした。一部ではGLMの具体的な派生モデル名も推測されていますが、現時点の証拠からは、未発表モデルなのか、既存モデルの実運用版なのか、ファインチューニング版なのか、関連インフラを使う独立運営モデルなのかを判断できません。
最も妥当な表現は、**「Ox AlphaはGLM由来である可能性があり、智譜AIとの関係が疑われているが、開発元と正確なモデル名は未確認」**です。個々の分析者が示した確信度を、公式なモデル識別結果として扱うべきではありません。
開発者にとって、Ox Alphaのデータ保持方針は性能以上に重要な論点かもしれません。OpenRouterのOx Alpha掲載ページでは、プロバイダーがプロンプトと応答を保持するものの、学習には利用しないと説明されています。
これはOpenRouter全体のデータ収集方針とは別の話です。OpenRouterは、ユーザーが入出力ログを有効にしない限り、同社自身はプロンプトや応答を保存しないと説明しています。一方で、モデルを実際に処理するプロバイダーには、個別の保持方針が設定される場合があります。
OpenCodeはOx Alphaについて「ゼロデータ保持」と宣伝しました。ただし、これはOpenCode側でのリクエスト処理を指している可能性があり、OpenRouter経由で接続される基盤プロバイダーの保持方針を自動的に無効にするものではありません。
つまり、「OpenCodeはデータを保持しない」と「基盤モデルのプロバイダーはプロンプトと応答を保持する」は、同じリクエスト経路の異なる段階について、同時に成り立つ可能性があります。
各事業者が一貫した、契約上も明確なデータ処理方針を公開するまでは、モデル提供者が送信内容を保持する可能性があると考えるのが安全です。無料サービスだから、あるいは「プロンプトを学習に使わない」と説明されているからといって、社外秘のソースコード、認証情報、個人情報、規制対象データを送るのは避けるべきでしょう。
Ox Alphaが注目を集めた理由は、主に3つあります。短期間ながら無料で試せたこと、約100万トークンの大規模なコンテキストとマルチモーダル入力を掲げたこと、そして初期のコーディング試験で印象的な結果を示したことです。
ただし、DeepSWEの80%という数字は、113タスク中の8問通過ではなく、10タスク中8問通過から算出された結果です。公開リーダーボードではClaude Opus 5が先行しており、Ox Alphaは公式評価も完了していません。
技術的な特徴からは、智譜AIのGLM系列という見方が最も有力です。しかし、公開の著者確認はありません。実験用モデルとしては興味深い一方、匿名の所有者、プロバイダー側のデータ保持、そして正体が未解決である点を踏まえると、本番環境や機密コードでの利用には慎重さが求められます。