危機の発端となったのは、2026年5月21日にアンカラの控訴裁判所が下した判断だった。
裁判所は、2023年に開かれたCHP党大会(第38回大会)について、投票手続きに不正の疑いがあるとして法的に無効と判断した。
この大会では、長年党首を務めていたクルチダルオール氏を破り、オゼル氏が新党首に選出されていた。ところが判決によりその結果が覆され、オゼル氏と執行部は一時的に解任され、クルチダルオール氏が暫定党首として復帰する形になった。
2023年の党大会は、同年の大統領選でレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領に敗れた後、CHPが世代交代と刷新を図る象徴的な出来事と見られていた。今回の判決は、その流れを事実上巻き戻す結果となり、党内の統治体制に大きな不確実性をもたらしている。
裁判所の判断はすぐに現場の緊張へとつながった。
当局は、判決を執行するためオゼル派の指導部を党本部から退去させるよう警察に命令。アンカラにあるCHP本部の周辺には機動隊が展開し、支持者も集まったことで政治的な対峙の場となった。
トルコの最大野党本部に警察部隊が配置されたことで、この問題が単なる党内トラブルではなく、国家レベルの政治危機に発展しているとの見方が強まっている。
同時に、2023年の党大会をめぐって刑事捜査も進められている。
トルコ警察は、党首選挙に関連する票の買収や不正操作などの疑いを調べる捜査の一環として、13人を拘束した。
当局は大会の投票が操作された可能性を調査しているとしているが、CHP側はこれらの疑惑を否定し、法的手続きそのものに強い疑問を呈している。
今回の出来事は国内外から強い批判を招いている。
人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは、この決定についてトルコの民主主義と法の支配に対する深刻な打撃だと指摘し、司法が最大野党の内部に介入している可能性を懸念した。
また分析者の多くは、今回の危機をより広い政治的文脈で見ている。たとえば、エルドアン大統領の有力な政敵とされるイスタンブール市長エクレム・イマモール氏も、汚職事件をめぐる大規模な裁判に直面しており、政治キャリアへの影響が懸念されている。
こうした動きから批判派は、司法手続きが野党勢力に対する圧力として使われている可能性を指摘している。
今回の問題は単なる党内の主導権争いにとどまらない。
CHPはトルコで最大の野党であり、その指導部をめぐる裁判所の判断は、2028年に予定される次期大統領選挙に向けた政治バランスに影響を与える可能性がある。
もし判決が最終的に維持されれば、野党の戦略や指導体制は大きく変わる可能性がある。党本部への警察出動、党大会の無効化、そして刑事捜査の進行――これらが重なり、トルコ政治における司法と政治の関係が改めて焦点となっている。
現時点でCHPは、分裂した指導体制と未決の裁判という不安定な状況にあり、この対立が今後のトルコ政治に長く影響を及ぼす可能性がある。