この結果、システム全体の1日あたりの処理能力(スループット)は約16京回(16ペタ回、京は兆の1万倍)の分子ドッキング計算に達します。これは、これまでのスーパーコンピュータによる分子ドッキング計算の国際最高記録と比較して、実に100万倍(6桁)も高い数値です 。
もちろん、この技術は「創薬プロセス全体が一瞬で終わる」ことを意味するわけではありません。「当たり」を見つけた後のヒットバリデーション(検証)、リード化合物への最適化、動物実験での毒性・薬物動態確認、そして長期にわたる臨床試験(治験)は依然として必要です。しかし、創薬サッカーに例えるならば、広大なフィールドからゴール前へボールを運ぶ中盤のプロセスが、一瞬で完了するようになったという大きな進歩です。
特に注目すべきは、新たな感染症(パンデミック)への緊急対応です。未知のウイルスが出現した際、そのタンパク質構造さえ解析できれば、GalaxyVSを用いて即座に1000億の化合物空間から候補薬を探索し、緊急の湿式実験や前臨床試験に進むためのリストを瞬時に作成できます。これは、2020年に全世界が経験したような公衆衛生上の危機において、創薬の「初動」を桁違いに早める可能性を秘めています 。
本発表の技術的詳細に関する一次情報源は、2026年5月27日付の中国科学技術日報です 。この報道は、英字メディア「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」や中国の新浪財経(Sina Finance)、網易(NetEase)など複数のメディアによって後日、確認・拡散されました
。発表時点ではGalaxyVSの内部構造を詳細に記した査読付き論文は公開されていませんが、公式機関の声明とメディア報道に基づく信頼性の高い成果です。
中国では、これ以前にも「天河2号」スパコンとAIを組み合わせた天然物の生合成経路予測などの成果が報告されており 、GalaxyVSはその延長線上に位置づけられます。重要なのは、この成果が単なるAIアルゴリズムの改良ではなく、「探索空間と同等の規模を持つ計算機パワー」を投入した工学的勝利である点です。今後、実際の生物学的標的に対するバリデーション、製薬企業のパイプラインへの統合、そして第三者機関による再現実験を通じて、この数十秒の計算がどれだけの「本物の治療薬」に結実するのかが問われることになります。