さらに10年物国債も1990年代後半以来の高い水準に達しており、日本の金利環境がゼロ金利時代から明確に変化していることを示している。
金利が上がると、日本の投資家にとっては海外資産を持つ理由が弱くなる。国内債券でも十分な利回りを得られるうえ、為替リスクや為替ヘッジのコストを負う必要がないためだ。
TDエコノミクスの分析でも、日本が「明確にプラス金利の環境」に移行することで、保険会社や年金基金による海外投資が減り始めていると指摘されている。
為替も重要な要因だ。
2026年には円相場が1ドル=160円近辺まで下落する場面があり、輸入物価の上昇が懸念されている。
日本はエネルギー輸入に依存しているため、円安になると石油や天然ガスの価格が国内で上がりやすい。さらに原油価格が上昇すれば、インフレ圧力は一段と強まる。
その結果、投資家は「日銀がさらに利上げするのではないか」と考えるようになる。金利がさらに上昇すれば長期債の価格は下がるため、長期の海外債券を多く持つリスクが高まる。
実際、エネルギー価格の上昇によるインフレ懸念は世界の債券市場全体の売り圧力にもつながっている。
より大きな背景には、日本の金融政策の転換がある。
日本銀行は長年、マイナス金利やイールドカーブ・コントロール(長期金利を抑える政策)を続けてきた。しかし近年はインフレや円安の影響もあり、政策の正常化へと舵を切りつつある。
市場では追加利上げの可能性も織り込まれ始めており、日本の金利は長く続いた超低金利の時代から徐々に離れつつある。
この変化は世界にとって重要だ。日本の金融機関は長年、世界最大級の海外債券投資家の一つだったからだ。
国内金利が上昇すれば、海外へ流れていた日本の資金の一部が国内へ戻る可能性がある。
この資金の動きは、日本だけの問題ではない。
日本は歴史的に米国債の最大級の海外保有国の一つだ。日本の投資家が購入を減らしたり保有債を売却したりすれば、米国債の需要は弱まる。
急激な危機を意味するわけではないが、投資家が新たな国債を引き受けるためにより高い利回りを要求する可能性がある。
同じことは英国国債(ギルト)にも当てはまる。日本の保険会社などは長期の海外国債の主要な買い手であり、資金流入が減れば英国の金利にも上昇圧力がかかる可能性がある。
国内では利回り上昇により貯蓄の運用利回りは改善する一方、政府の借入コストは上昇する。日本は世界でも最大級の政府債務を抱えており、長期的には財政負担の増加につながる可能性がある。
こうした債券市場の変化は、国際政策の議題にもなっている。
日本、米国、英国の国債利回りが同時に上昇し、互いの市場に影響を及ぼしているためだ。
そのため、パリで開催されたG7財務相会議では、エネルギー価格の高騰によるインフレリスクや世界的な債券市場の変動が主要議題の一つとなった。
政策当局は、金利上昇と資金移動が世界経済に与える影響を慎重に見極めようとしている。
日本の金融政策の正常化は、長年続いた世界の資本の流れを変える可能性がある。
もし日本の投資家が海外債券への投資を減らせば、次のような変化が起きやすくなる。
日本の巨額の貯蓄資金は、これまで国際債券市場の「静かな安定装置」とも言われてきた。その資金の流れが変わり始めていることは、世界の金融環境が新しい段階に入った可能性を示している。
今後の焦点は、その変化がどの程度のスピードで進むのか、そして各国の経済や政策がそれにどう適応するのかという点だ。