米国、日本、欧州などで長期国債の利回りが上がっている背景には、政策金利の見通しだけでなく、インフレがどこまで長引くか、そして投資家が長期債を保有するためにどれほどの「上乗せ利回り」を求めるかという再評価がある。
直近の引き金は中東情勢に伴うエネルギー価格の上昇だ。9月14日時点でブレント原油は1バレル104.32ドル、金は1トロイオンス4,356ドル近辺だった。
20 米10年国債利回りは9月10日に4.95%まで上昇した。
17 日本では10年国債利回りが3%を上回ったことが、国内だけでなく世界の資金の流れを変え得る水準として注目されている。
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なぜ原油高が長期金利を押し上げるのか
原油高はガソリンや電力などを通じて総合インフレ率を直接押し上げる。さらに賃金交渉、サービス価格、家計・企業の物価見通しに波及すれば、一時的な供給ショックでは済まなくなる。
長期金利は、現在の政策金利だけで決まるものではない。市場が見込む将来の短期金利、予想インフレ率に加え、タームプレミアム(期間、インフレ、国債増発、流動性の不確実性を引き受けるために投資家が求める追加利回り)を反映する。市場が「インフレはより長く続く」と判断すれば、中央銀行が実際に追加利上げを決める前でも、10年債などの利回りは上がり得る。
このため、米国債、ドイツ国債、英国債、新興国債に同時に売り圧力がかかる。世界全体で、将来の資金調達コストの基準が上方修正されているためだ。
ECBの9月利上げが示したこと
欧州中央銀行(ECB)は9月10日、主要3金利を0.25%引き上げ、預金ファシリティー金利を2.50%とした。ECBは中東の紛争がインフレ圧力を生み、インフレ率が長期にわたって2%目標を大きく上回る見通しだと表明した。スタッフ見通しでは、総合インフレ率は2026年に3.0%、2027年に2.5%、2028年に2.1%と予測されている。
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ユーロ圏のインフレ率はエネルギー高を主因に3%を大きく上回り、ECBは物価上振れリスクを警戒している。
3 利上げそのものが滞ったエネルギー供給を回復させるわけではない。狙いは、エネルギー高が賃金や幅広い価格設定に波及し、持続的なインフレへ転化するのを防ぐことにある。
ECB当局者は、エネルギー価格上昇が幅広い物価を押し上げ続ける場合には、追加利上げの可能性を残している。
2 債券市場にとっては、金利が従来想定より長く抑制的な水準にとどまるというシグナルになる。
FRBと日銀で市場が織り込んでいたもの
米連邦準備理事会(FRB)については、市場は政策金利の誘導目標を3.50〜3.75%から3.75〜4.00%へ、0.25%引き上げる方向に傾いていた。ただし、利上げは確実視されていたわけではない。
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20 注目点は利上げの有無だけではなく、FRBが原油高を一時的な要因とみるのか、再び「高金利の長期化」を示唆するのかにある。
日銀については、政策金利を1.00%から1.25%へ引き上げる観測が強かった。ロイターによると、市場は9月の利上げをほぼ確実とみなし、金利スワップ市場では翌年1月までに1.5%へ達することが完全に織り込まれていた。
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日本の政策変更が特に重要なのは、日本が長年にわたり低コストの資金調達源であると同時に、海外債券の大口買い手でもあったためだ。
日本の金利上昇が世界に伝わる3つの経路
日本の10年国債利回りが3%を超えたことは、国際資本フローが変わる可能性を示す。ロイターはこれを約30年ぶりの節目と位置づけ、日本国内のより高い利回りが資金を呼び戻し始めていると報じた。公的統計では、日本の投資家はすでに海外債券を純額3兆円売り越している。
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国内債券の相対的な魅力が高まる
日本の銀行、保険会社、年金基金にとって、国内で得られる利回りが上がれば、為替ヘッジのコストも考慮したうえで海外国債を持つ必要性は低下する。
海外国債への追加需要が弱くなる
日本の投資家が海外債券を売却したり、新規資金を日本国債へ振り向けたりすれば、米国債などは買い手を確保するためにより高い利回りを提示する必要が出てくる。
円キャリー取引が巻き戻されやすくなる
円キャリー取引とは、低金利の円で借り入れ、高金利通貨や海外の債券・株式などに投資する取引を指す。日本の金利上昇は円での調達コストを引き上げ、円高は外貨建て運用を円に戻して借入金を返済する際の負担を重くする。
ロイターは、日米の金融政策決定を控えた局面で円が急伸し、トレーダーが円キャリー取引を解消し始めていると報じた。
34 秩序ある調整なら主に資金調達コストの再評価にとどまる。一方で急激な巻き戻しとなれば、国債、株式、新興国債など流動性の高い資産の売却につながるおそれがある。
新興国が受ける影響
新興国は、通貨、海外投資家の資金フロー、借入コストという3つの面で影響を受けやすい。世界の長期金利が上昇し、円キャリー取引が縮小すれば、投資家はリスク資産への配分を減らしたり、保有継続のためにより高い利回りを求めたりする可能性がある。
一般に、対外資金への依存が大きい国、現地債券における外国人保有比率が高い国、外貨準備に余裕がない国、ドル建て・円建て債務が大きい国ほど影響を受けやすい。現地金利の上昇は投資資金の流出を抑える一助になり得るが、政府・企業の借り換えコストも引き上げる。
影響は一様ではない。資源輸出国はエネルギー高の恩恵を一部受け得るほか、信頼性の高い政策運営と厚みのある自国通貨建て債券市場を持つ国は、変動を吸収しやすい。それでも、日本由来の流動性が広範に縮小すれば、日本国外でも金融環境は引き締まる。
次に注目すべきポイント
FRB: 0.25%の利上げを実施するかに加え、声明や経済見通しが追加引き締めを示すかが焦点だ。原油高を一時的と判断するか、持続的なインフレとみるかによって、米長期金利の方向感は変わる。
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日銀: 1.25%への引き上げが、いったんの停止なのか、金融正常化の次の段階なのかが重要となる。1.5%に向けた期待が強まれば、円高、キャリー取引の解消、日本への資金還流を促す力も強まり得る。
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ECB: ECBは物価を目標へ戻す姿勢を明確にする一方、紛争起因のエネルギー高が先行きを不透明にしていることも認めた。ショックがエネルギー以外の価格にも広がるかどうかが、追加利上げの判断材料となる。
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結論:焦点は「原油高」だけではない
今回の債券売りは、インフレ、金融政策、国際資本フローが同時に再評価される局面と捉えるのが適切だ。エネルギー供給の混乱がインフレリスクを高め、中央銀行は対応を迫られ、市場は不確実性を引き受けるためにより高い長期金利を要求している。
そこに日本という世界的な経路が加わる。日本国債利回りの上昇と円高は、海外債券の魅力を低下させ、円で調達した投資ポジションの解消を促し得る。市場の混乱を必ず意味するわけではないが、原油高、金融引き締め、海外債券への需要低下が互いに強め合うリスクは高まる。
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