バンク・オブ・アメリカが示した9月の見通しは、2つの要因が重なった結果だ。年末の電子機器需要を見据えた季節的な買い付けと、限られたメモリー生産能力をAIサーバー向けに振り向ける動きである。同銀は、DRAMとNANDのスポット価格が2026年9月にさらに10〜20%上昇する可能性があると予想している。ただし、これはすべての契約価格、製品カテゴリー、最終製品の価格が一律に同じ割合で上がるという意味ではない。
5
9月に価格が再び上がる理由
メモリーメーカーは、より高い収益が見込めるAI・サーバー向け製品を優先している。特に、AIアクセラレーターに使われる高速メモリー「HBM(High Bandwidth Memory)」やサーバー向けDRAMへの供給が重視されている。
その結果、流通業者、メモリーモジュールメーカー、一般消費者向け電子機器メーカーが調達できる従来型DRAMやNANDの量が減っている。さらに、年末商戦に向けて買い手が早めに発注しており、もともと確保しにくい在庫をめぐる競争が強まっている。
5
これは単純な生産量不足というより、「どの顧客に供給するか」という配分の問題でもある。新しい工場や生産ラインは、建設、装置の搬入、試運転、量産立ち上げに時間がかかるため、AI需要が急増しても短期間で供給を増やすことは難しい。
Samsung、SK hynix、Micronが将来のDRAM・HBM生産能力の多くをAI顧客向けに確保しているとの報道もある。ただし、2027年の生産分が完全に埋まっているという見方は、業界関係者の報道に基づくものであり、各社が一律に公表した確定情報ではない。
3
10
スポット価格はすでに市場の緊張を示している
価格上昇は9月に始まるわけではない。バンク・オブ・アメリカのデータとして報じられた内容によると、DDR5-5600/6400の24GBモジュールのスポット価格は8月に前月比8%上昇し、前年同月比では483%高い水準に達した。
10
NANDでも上昇が目立つ。最近の1週間だけで、新しい世代の製品は5〜6%、旧世代品は10%超値上がりしたと報じられている。
17
もっとも、スポット価格と長期契約価格は同じものではない。また、どちらもノートPC、スマートフォン、SSDの店頭価格にそのまま反映されるわけではない。それでもスポット市場の上昇が続けば、メーカーの調達コストや在庫確保の負担が増え、値引き余地が縮小する。大口契約を持たない企業ほど、必要な数量を確保しにくくなる可能性がある。
供給の充足率が悪化する背景
Samsung、SK hynix、Micronの大手3社は、AI顧客や、利益率の高いHBM・サーバー向け製品に生産能力を振り向けている。一般的なPC、スマートフォン、その他の電子機器に供給される分は、その分だけ圧迫される。
5
供給状況を示す数字には、調査対象や定義の違いがあるため注意が必要だ。バンク・オブ・アメリカが引用した流通チャネル調査では、9月のスポット市場における供給充足率が50%を下回った。一方、別の業界報道では、PC・スマートフォンメーカーが要求量の60〜70%しか受け取れていないケースがあるとされる。
5
4
両者は同じ指標ではないが、実務上のリスクは共通している。大手AI顧客のような長期契約を持たない買い手は、希望した数量を受け取れない可能性が高まっているのだ。
PCやスマートフォンの価格にどう響くのか
最初に影響が表れやすいのは、店頭価格そのものよりもメーカーの部品コストだろう。メモリー価格の上昇は、次のような製品の部品表コストを押し上げる可能性がある。
- PC・ノートPC
- スマートフォン
- SSDなどのストレージ製品
- 増設用メモリーモジュール
- サーバー・AIシステム
メーカーは、値引きの縮小、メモリー容量を抑えたモデルの投入、構成の制限、出荷の延期などで対応する可能性がある。ただし、コスト上昇を最終価格に転嫁するかどうかは、各社の在庫、契約条件、利益率、価格戦略によって異なる。
市場は次第に二極化している。AIインフラ事業者は、性能に直結する希少なメモリーに高い価格を支払う余地がある。一方、一般向け電子機器メーカーは、AI向けに割り当てられた後の生産能力をめぐって競争しなければならない。
3
5
NVIDIAの成長にもメモリーがボトルネックに
HBMは、NVIDIAのGPUをはじめとするAIアクセラレーターに欠かせない部品だ。NVIDIAとその顧客がHBMを大量に必要とするほど、メモリーメーカーには、一般消費者向けDRAMよりHBMやサーバー製品を優先する誘因が生じる。
8
ここで重要なのは、NVIDIAのGPU需要だけがAIシステムの出荷量を決めるわけではないという点だ。AIアクセラレーターへの注文が強くても、完成したシステムを出荷できるかどうかは、HBMや周辺のサーバーメモリーを確保できるかに左右される可能性がある。
NVIDIAの最高財務責任者(CFO)コレット・クレス氏は、メモリー不足が2028年1月に終わる同社の2028会計年度まで、成長のボトルネックになる可能性があると説明した。
7
8
これはNVIDIAの需要が消えたという意味ではない。強い需要が存在していても、メモリーの供給量が、実際に完成・出荷できるAIインフラの速度を制限しうるということだ。
SK hynixは恩恵を受けるが、供給を急には増やせない
需給がひっ迫すれば、SK hynixにとっては価格決定力が高まり、HBMやサーバー向けメモリーの比率を上げやすくなる。供給不足は同社にとって商業的な追い風になりうる。
しかし、需要が増えたからといって、出荷数量をすぐに増やせるわけではない。生産能力、製造リードタイム、HBMの特殊性が、供給拡大の速度を制約するためだ。
SK hynixの郭魯正(クァク・ノジュン)CEOは、2027年が供給面で業界史上最悪の年になる可能性があり、需要が同社の生産能力を2030年以降も上回る可能性があると述べた。
1
この見通しはメモリーメーカーにとって強気の価格環境を示す一方、短期的に顧客へ届けられる追加供給量には物理的な限界があることも浮き彫りにしている。
2027年より前に価格は落ち着くのか
現時点の情報からは、特にDRAMとHBMについて、2027年より前に市場全体が大きく緩和する可能性は高くない。AIサーバー需要、HBMへの生産能力配分、工場増強の立ち上がりの遅さが、DRAMの供給を引き続き制約するとみられている。
12
NANDの見通しはやや異なる。TrendForceは、新たな生産能力が稼働する一方、家電需要の弱さが価格の下押し圧力となり、NANDは2027年後半に供給が緩む環境へ移行すると予想している。
12別の市場見通しでも、同時期にNANDは需給均衡、さらには供給過剰へ向かう可能性が示されている一方、DRAMは構造的な不足が続くとされる。
6
したがって、特定のNAND製品で価格調整が先に起こる可能性はある。しかし、それだけでDRAMやHBMの価格が下がるとは限らず、AIインフラが抱えるメモリーのボトルネックが直ちに解消するわけでもない。
重要なのは「メモリー」と一括りにしないこと
バンク・オブ・アメリカの9月の10〜20%上昇予想は、AI需要と一般電子機器の需要が、限られたメモリー供給を直接奪い合っている状況を反映している。消費者は製品価格の上昇や、メモリー容量の少ない構成、値引きの縮小に直面する可能性がある。メーカーにとっては、調達コストだけでなく、必要な数量を確保できないリスクも大きい。
NVIDIAの成長も、AIアクセラレーターの注文だけでなく、HBMとサーバー向けメモリーをどれだけ確保できるかに左右される。SK hynixなどの供給企業は価格面で恩恵を受ける一方、工場や生産ラインを増やすための時間から逃れることはできない。
今後の見通しを考えるうえで、最も重要なのはDRAM・HBMとNANDを分けて見ることだ。DRAMとHBMは2027年も供給が厳しい状態が続く可能性が高い。一方、NANDは2027年後半に供給が緩む道筋が比較的明確になっている。メモリー市場全体に単一の「危機解消日」を設定すると、異なる2つの需給ストーリーを見誤るおそれがある。