月の南極は、科学的な価値が高い一方、運用の難しい地域です。深いクレーターの底には恒久的に太陽光が届かない場所があり、極めて低い温度が保たれています。こうした環境では、水氷などの揮発性物質が長期間保存されている可能性があります。
しかし、暗闇と低温は探査機にとって大きな障害です。安全な航行、地球との通信、機体の温度管理、電力の確保がいずれも難しくなります。明るい地面を走るローバーが周辺の地形を調べる一方、ホッピング探査機は急斜面や暗い場所など、車輪での走行が制限される地域に到達する手段となります。周回機と着陸機による観測も組み合わせ、水氷の分布や性質を複数の方法で調べる計画です。
候補地とされるシャクルトン・クレーター周辺の明るい縁は、太陽光を利用した表面活動に比較的適していると考えられています。同時に、近くの永久影領域へアクセスできる可能性もあります。ただし、惑星協会が2026年3月の概要で指摘したように、最終的な着陸地点は公表されていません。
主な例は次の通りです。
そのため、嫦娥7号は水氷だけを探すミッションではありません。月の地質、表面のちり、プラズマ環境、月面から見た宇宙の観測まで、幅広い科学テーマを扱います。
打ち上げ後、探査機はおよそ6日で月周回軌道に入る見込みです。その後、周回機が観測を行い、着陸機が月の南極付近の目標地域へ降下します。報道では、着陸は打ち上げ直後ではなく、2026年後半の予定とされています。
この手順には重要な意味があります。周回機が先に月を調べることで、照明条件や地形、着陸時の危険要因について追加情報を得られるからです。月の南極で安全に着陸するには、目標の緯度に到達するだけでは足りません。科学的に価値があり、なおかつ探査機が活動を続けられる地形を選ぶ必要があります。
ミッションが成功すれば、将来の月探査で重要になる南極地域について、中国が詳細な無人探査データを得ることになります。水氷が存在し、しかも利用しやすい濃度で見つかれば、科学研究だけでなく将来の探査に役立つ可能性もあります。ただし、嫦娥7号の当面の目的は月面基地を建設することではなく、極域の環境と物質を測定・記録することです。
最大の試練は、単に月へ到達することではありません。周回観測、精密着陸、地表走行、跳躍探査を、極端に寒く暗い地形の近くで一体的に運用できるかどうかです。そのシステム統合こそが、嫦娥7号を中国の月探査における大きな一歩にしています。