Microsoftは2025年12月、WindowsやMicrosoft 365、Teams、Outlook、Surfaceのエンジニアリングチームを含む「エクスペリエンス+デバイス」部門の数千人の社員に対し、AnthropicのAIコーディングツール「Claude Code」へのアクセスを許可し始めた 。この試みは非常に人気を博したが、利用量に応じて課金されるトークンベースの請求が、すぐに財務上の問題となった。複数の報道によると、このプログラムは同部門の年間AI予算をわずか数カ月で使い果たし、同社は2026年5月14日から、社内ライセンスの大半を解約し始めたという
。
移行の最終期限は、2026年6月30日。これはMicrosoftの会計年度の最終日であり、このタイミングは、製品戦略と同じくらい予算管理の問題としてこの解約を位置づけている 。影響を受けるエンジニアは、Microsoftが完全に所有するツールである「GitHub Copilot CLI」への移行を指示されている
。同社は、AnthropicのClaudeモデル自体は「Microsoft Foundry」や「Microsoft 365 Copilot」内で引き続き利用可能であることを強調しているが、そのインターフェースとコスト負担のモデルは大きく変わることになる
。
AIコストの暴走を示す最も劇的な例は、おそらくUberの事例だろう。CTOのプラビーン・ネッパリ・ナガ氏は2026年4月、The Informationに対し、同社が年間のAIツール予算を、会計年度開始から4か月も経たずに使い果たしたことを認めた 。主な要因は、2025年12月の導入以降、約5,000人のエンジニア組織全体でAnthropicのClaude Codeが急速かつ広範に普及したことにある
。
また、UberはAIの利用量に基づいてエンジニアリングチームをランク付けする社内リーダーボードを運用していた。これにより、Claude Codeの利用率は2か月で32%から84%に加速した 。4月までには、Uberのエンジニアの95%が月に一度はAIツールを利用し、コミットされたコードの70%がAIによって生成されるまでになった
。エンジニア一人あたりのAPIコストは、月額500ドルから2,000ドルに上っていたと伝えられている
。
しかし、この驚異的な導入率にもかかわらず、事業上の正当化は困難であることが明らかになった。Uberのアンドリュー・マクドナルドCOOは、ポッドキャスト「Rapid Response」で、同社のAI支出と消費者向け製品の改善との間に直接的な関連性を見出すことができないと公式に語った。「その関連性はまだ見えていないのです。暗黙のうちにもっと多くの機能がリリースされているのかもしれませんが、『こうした統計のおかげで、実際に消費者にとって役立つ機能を25%多く生み出せるようになりました』といった線を引くのは非常に困難です」と彼は述べた 。CTOのナガ氏はThe Informationに対し、「必要だと思っていた予算は、すでに吹き飛んでしまったので、振り出しに戻らざるを得ません」と打ち明けた
。
これらの事例の根底にあるのは、グッドハートの法則と呼ばれる経営管理上の失敗である。すなわち、「測定値が目標になると、それは良い測定値ではなくなる」というものだ 。AI導入を実証したい企業は、トークン消費量やAIツールの起動回数で社員やチームをランク付けする社内ランキングシステムを構築した。従業員は合理的に行動し、成果ではなく、その指標を最適化した。その結果、ランキング上の順位は上がるが、実際のビジネス価値は生み出さない、低価値で不必要なAI呼び出しが爆発的に増加し、インフラコストを直接押し上げたのである
。
この行為は、何もAmazonやUberに限った話ではない。複数の報道によれば、他の大手テクノロジー企業でも「トークンマキシング」が観測されている。しかし、Amazonがリーダーボードを公に撤去したことが、この仕組みの失敗を象徴する、最も目に見える事例となった 。
これらの事例に共通するテーマは、AIツールそのものが失敗したのではなく、生の利用量を測定し、報酬を与えることが、AIが本来代替すべき作業よりも高くつく可能性のある、有害なインセンティブを生み出したということだ。各社は現在、指標を「導入量」から「測定可能なビジネス価値」へと急速に転換している。すなわち「AI支援によって、実際に出荷されるアウトプットは改善されたのか?」という問いが中心になりつつある 。
AI導入競争として始まった流れは、今やコスト規律の強制へと変わりつつある。「できるだけ多くのトークンを消費せよ」という時代は終わり、「実際のアウトプットでコストを正当化せよ」という時代が幕を開けているのだ。
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