Anybrainは、ゲーム業界向けのAIセキュリティ・不正対策企業だ。2015年に設立され、本社はポルトガル北部のブラガにある。
同社のプラットフォームは主に次の領域で利用される。
・オンラインマルチプレイヤーゲーム
・eスポーツ大会
・不正防止や本人確認が重要なデジタルプラットフォーム
多くのアンチチートソフトが「プレイヤーのPC内部」をチェックするのに対し、Anybrainはゲーム内でのプレイヤーの行動そのものを分析する点が特徴だ。
従来のアンチチート技術の多くは、次のような方法に依存している。
・PCのプロセスをスキャンする
・不正ツールを検知する
・カーネルレベルのドライバーをインストールする
しかしこの方法は、プライバシーやセキュリティの観点で議論を呼ぶことも多い。
Anybrainのシステムは別の方向を採る。AIがプレイヤーの入力パターンを分析し、不自然な挙動を検出する。
分析される主な信号は次の通り。
・キーボード入力のダイナミクス
・マウスの動きやクリックパターン
・コントローラーやジョイスティックの操作
・アクションのタイミングやリズム
これらを組み合わせることで、人間のプレイに固有の「行動プロファイル」を作成できる。AIモデルはそこから、ボット、スクリプト、自動化ツールなどの異常な挙動を見つけ出す。
2019年、同社は「キーボードやコントローラー入力だけでチートを検出する」システムの特許を出願。当時は侵入型のアンチチートが主流だったため、業界から懐疑的な声も多かったという。
その後技術が成熟し、欧州特許を取得しつつ、大手ゲームスタジオ(AAAタイトル)との連携も進んでいると報じられている。
また、デバイス内部を監視するのではなく行動データを分析する仕組みのため、PCだけでなくコンソールやモバイルなど複数プラットフォームで導入しやすい点も特徴とされる。
チート問題は単なるプレイヤーの不満にとどまらない。ゲーム会社にとってはビジネス上の大きなリスクでもある。
調査によると、
・約80%のゲーマーがオンラインゲームでチートを経験している
・55%がチートの影響でゲーム内課金を減らした、または停止した
・60%がゲーム体験に悪影響があったと感じている
と報告されている。
競争性の高いゲームでは、少数の不正でもコミュニティ全体に疑念が広がり、プレイヤーの離脱につながる可能性がある。
さらに問題を複雑にしているのが、チートビジネスの巨大化だ。チートソフトのサブスクリプションやアカウントブースト、ハードウェアID偽装などを含む地下市場は、世界で約85億ドル規模に成長していると推定されている。
その結果、開発会社にとってチートは次の分野に影響を及ぼす。
・プレイヤーの継続率
・ゲーム内課金
・eスポーツの競技性
・ブランドやコミュニティの信頼
現在ではアンチチートは、ライブサービス型ゲームにおける基盤インフラの一部とみなされるようになっている。
Anybrainの技術は、プレイヤーの操作データをAIで分析して不正行為を検出する仕組みとして特許化されている。特許文書には、eスポーツにおける不正行動を検出するシステムと方法が記載されている。
同社はモデルの精度向上のため、数千万時間規模のゲームプレイデータを分析してトレーニングを行っていると報告している。
Anybrainの技術はアンチチートが中心だが、基盤となる「行動バイオメトリクス」は他分野でも利用されている。
例えば次のような用途だ。
・金融の不正検知
・サイバーセキュリティの継続認証
・デジタルIDの検証
ゲームはプレイヤーの操作データが継続的かつ高頻度で取得できる環境であるため、機械学習による行動分析にとって理想的な実験場ともいえる。
そのため将来的には、オンラインサービス全体の信頼性や安全性を支える仕組みへと広がる可能性も指摘されている。
ゲームのチートは、単純なツールから高度なAI支援型へと進化している。一方でアンチチートもまたAI化が進んでいる。
Anybrainの発想はシンプルだ。
「コンピューターを調べるのではなく、コントローラーの向こう側にいる人間を理解する」
プレイヤーの操作リズムや動き方といった微細なパターンをAIが読み取り、人間らしくない挙動を見抜く。このアプローチは、今後の競技ゲームの公平性を守るうえで重要なレイヤーになるかもしれない。