従来のGPU(NVIDIA製品を含む)は、AIモデルの重みをHBM(高帯域幅メモリ)から演算コアに転送する処理に、処理時間と電力の大部分を費やしている。これが「メモリウォール」と呼ばれる推論スループットの最大のボトルネックである。
Taalasの解決策は**モデル固有集積回路(MSIC)**です。同社のチップは、モデルのデータフローアーキテクチャと数値的な重みの両方を、製造段階でチップの論理回路と金属配線層に直接配線(ハードワイヤリング)する。これにより、メモリからの重みの読み出しが一切発生せず、ボトルネックを完全に排除する。
その性能は劇的だ。Taalasが2026年2月に公開したHC1テストチップ(TSMCの6nmプロセスで製造)は、Meta社のLlama 3.1 8Bモデルを毎秒16,960トークンで処理。これは同等のNVIDIA GPUと比較して最大48倍高速であるとされる(比較対象のNVIDIA GPUによっては最大73倍とする報道もある)。
重みが工場出荷時に物理的にシリコンに焼き付けられるため、各Taalasチップは製造された単一のモデルしか実行できない。異なるモデルを読み込ませることはできない。
しかし、Taalasはこの硬直性を緩和するツールチェーンを開発した。約100層のチップスタックのうち、最上部の2つの金属層のみを最終決定する方式を採用。これにより、新しいモデルに対応するためのテープアウト期間は約2カ月に短縮される。ベースとなるウェハ設計は一定で、従来のASIC開発に比べて再設計が迅速に行える。
AMDは、TaalasのMSICを、同社のInstinct GPUおよびラックスケールシステム「Helios」と組み合わせた、分散型のヘテロジニアスコンピューティングアーキテクチャに統合する計画だ。
この設計では、汎用のInstinct GPUがトレーニングと柔軟性を要する推論ワークロードを担当。一方、Taalasチップは、最も需要の高い特定モデル向けの高スループット・低レイテンシな専用推論アクセラレータとして展開される。Heliosプラットフォームがこれらを統合されたラックスケールファブリックで接続する。
このアプローチにより、AMDは顧客に対して、多様なワークロードに対応する柔軟なGPUと、固定された高負荷モデルに特化した超高効率MSICという、階層化された推論ソリューションを提供できるようになる。
買収条件は非公開。 今回の買収は、AMDによる大規模買収の流れに連なるものだ。AMDはこれまでに、ZT Systemsを49億ドル(2024年7月)、Silo AIを6億6,500万ドル(2024年8月)で買収している。
競合面では、この契約はNVIDIAに対抗するAMDの布石とみられる。NVIDIAは2026年初頭、GroqのLPU(Language Processing Unit)推論アーキテクチャへのアクセスを得るために、Groqと200億ドル規模のライセンス契約を結んだと報じられている。AMDは、Taalasのモデル固有ハードワイヤリング技術が、固定された高負荷の推論ワークロードにおいて、さらに優れた性能対ワット比を実現できると見込んでいる。
Taalasは2023年にトロントで、元Tenstorrent CEOのLjubisa Bajic氏と、元AMDエンジニアを含むチームによって設立された。
同社は買収以前に、Eclipse Ventures、Makers Fund、Radical Venturesなどの投資家から2億1,900万ドルのベンチャー資金を調達していた。
2026年2月にはHC1チップのデモを公開し、Llama 3.1 8Bで毎秒16,960トークンのベンチマークを達成。これがAMDの関心を引くこととなった。
AMDによるTaalas買収は、AI推論の未来が、ますます高速化する汎用GPUにあるのではなく、最も重要なモデルに対して柔軟性を犠牲にしてでも極限の効率を追求する専用チップにあるという賭けである。TaalasのMSICとInstinct GPUを分散アーキテクチャで組み合わせることで、AMDは多様なモデルへの対応(ロングテール)と、人気モデルの高トラフィック処理の両方をこなせるシステムを構築し、NVIDIAが支配するGPUベースの推論スタックに真っ向から挑戦しようとしている。