その実績から、シナーは全米オープンの優勝争いで最も軸になりやすい存在だった。欠場の意味はエントリーリストから名前が一つ消えることだけではない。ランキング、直近の成績、ハードコートでの信頼性を兼ね備えた筆頭候補が、ドローから外れることを意味する。
ズベレフはマドリード大会決勝でシナーに敗れている。シナーとの再戦の可能性が消えたことで組み合わせ上の障壁は一つ減る一方、第1シードとしてフィールドを率いる重圧も増す。
アルカラスにとっては、シナーという最上位の対戦相手を避けられるメリットがある。しかし、約4か月ぶりの復帰戦となるだけに、試合勘やフィジカル、長い大会を戦い抜く準備が整っているかは未知数だ。優勝候補の一人であることに変わりはないが、結果が読みにくい立場でもある。
シナーという圧倒的な存在がいなくなったことで、ジョコビッチの優勝への現実味は増した。ただし、これでジョコビッチの道が約束されたわけではない。
つまり、シナーの代わりに一人の本命が現れたのではなく、優勝争い全体に余白が生まれたということだ。第1シードのズベレフ、復帰戦に臨むアルカラス、実績豊富なジョコビッチ、そしてシェルトンやフリッツらが、それぞれ異なる強みを持ってタイトルを争う。
ただし、これは空いた出場枠を埋める措置であり、世界1位を失ったことによる競技上のインパクトを埋め合わせるものではない。より大きな変化は、シード順とドロー全体に生じるチャンスの再配分だ。
今回の欠場は、引退や長期離脱を発表したものではなく、右ひざの回復を優先するための判断だ。シナーはモントリオールとシンシナティも欠場しており、全米オープンの見送りは、一度きりの直前トラブルではなく、継続的な状態確認の結果とみられる。
大会への影響はすでに明確だ。ズベレフが第1シードとなり、アルカラスは最大のライバルを欠いた状態で復帰戦に臨む。ジョコビッチ、シェルトン、フリッツらには、これまでより開かれた優勝争いが待っている。
一方、シナーにとって最優先すべきなのは、早期復帰ではなく、右ひざを十分に回復させてから競技へ戻ることだ。