VisaとMastercardは2026年8月27日、シリア国内で15年以上ぶりとなる国際カード決済の実証取引をそれぞれ完了した。シリアの決済インフラが再び世界的なカードネットワークにつながり得ることを示す重要な節目だが、全国どこでもカードが使えるようになったことを意味するわけではない。1115
8月27日に何が起きたのか
Visaは、シリア国内で初めてのライブ国際取引をテストしたと発表した。ダマスカス旧市街のカフェでは、アハマド・アル=シャラア大統領がコーヒー代をVisaカードで支払い、シリア中央銀行のサフワト・ラスラン総裁が見守った。
この場面は単なる買い物ではなく、店舗の決済端末から加盟店契約を担う金融機関、決済事業者、そして国際カードネットワークへとつながる経路が機能することを示す公開実証だった。135
一方、Mastercardとカタール国立銀行(QNB)グループは、QNBが「シリア初のエンド・ツー・エンドの国際カード決済」と説明する取引を完了したと発表した。海外で発行されたMastercardを、承認を受けたシリア国内の加盟店で使用し、QNBのシリア事業とMastercardのネットワークを通じて決済処理を完了させたという。1519
両社の発表は、シリアが国際決済網へ再接続し始めたという点では共通している。ただし、Visaは「ライブ取引のテスト」、MastercardとQNBは「決済サイクル全体を通した取引」と、それぞれ異なる実証内容を強調している。711
取引を処理したのはどの金融機関か
Visaのテストでは、レバノンのFransabankが加盟店側の決済を受け付けるアクワイアラー(加盟店管理金融機関)を務め、シリアの決済サービス事業者Paymeraが協力した。シリア中央銀行も取り組みに関与した。3412
Mastercardの取引はQNBグループと共同で処理された。QNBはすでに、シリアでMastercardのカード発行・加盟店決済業務を拡大する認可を取得しており、今回の取引によって、海外発行カードから承認済みのシリア国内加盟店へ決済を通せることを実証した。151922
簡単に言えば、アクワイアラーや決済パートナーは、店舗の端末とカードネットワークを接続し、利用承認や売上の精算を進めるための地域側の基盤を担う。
大統領のVisa決済はどのように実現したのか
アル=シャラア大統領によるコーヒー代の支払いは、全国的なサービス開始というより、Visaの国際取引ルートを公開の場で示す実証だった。大統領は中央銀行総裁の立ち会いのもと、旧市街のカフェでVisaカードを決済端末にかざした。136
Visaによれば、取引はFransabank Lebanonをアクワイアリング金融機関、Paymeraを決済パートナーとして実施された。この仕組みにより、シリア国内の店舗取引を国際Visaネットワークへ接続し、適用される規制の枠内で技術的な経路が機能することを確認した。41227
そのため、この一度の決済を「シリア全土でVisaが利用可能になった」と受け取るのは正確ではない。実証の対象となった店舗、金融機関、カード、規制上の条件がそろっていたからこそ成立した取引と見るべきだ。
Mastercardのエンド・ツー・エンド取引が可能にすること
MastercardとQNBは、今回の決済完了によって、商業施設や公共部門で国際カードを受け付ける土台が整ったと説明している。想定される利用先には、ホテル、レストラン、政府機関などが含まれる。3715
海外からシリアを訪れる人にとっては、国外で発行されたカードで現地の店舗に電子決済できる可能性が広がる。企業や公的機関にとっては、POS端末などを通じて国際カードを受け付けるための基盤となる。MastercardとQNBは、POS、EC、スマートフォンを決済端末として使う「SoftPOS」まで含めたインフラ整備も進めている。23
ただし、これは利用可能な店舗が一斉に増えることと同義ではない。実際にカードが使えるかどうかは、店舗、アクワイアリング銀行、ネットワーク設定、規制上の許可、現場の運用準備などに左右される。
なぜ今回の実証が可能になったのか
大きな転機は、8月の発表に先立つ2つの動きだった。
1つ目は、2026年5月4日、シリア中央銀行が、認可を受けた国内銀行と電子決済会社に対し、VisaやMastercardなど世界的な決済企業と協業することを認めたことだ。この決定は、国内の決済システムを近代化し、国際ネットワークとの接続を強める取り組みの一環とされた。735
2つ目は、米国が8月24日、シリアをテロ支援国家のリストから除外したことだ。決済実証の発表はその数日後に行われ、報道では、シリアが国際金融ネットワークとの再接続を目指す動きとの関連が指摘された。71118
もっとも、規制面の変化だけで準備が整ったわけではない。Mastercardは1月、QNBグループがシリアでカード発行・加盟店決済業務を拡大するライセンスを取得したと発表。5月には、国際カード決済を一連の流れで処理するためのインフラ整備でも協力を進めていた。2223
2025年12月から積み上げられた準備
8月の取引は突然実現したものではなく、技術、制度、事業面での準備が段階的に進められていた。
- シリア中央銀行とVisaは2025年12月までに、近代的なデジタル決済システムを構築するロードマップ作りに着手した。37
- MastercardとQNBは、シリアでの決済サービスを支えるライセンスと加盟店決済の枠組みを整えた。22
- シリアは2026年5月4日、認可を受けた銀行や電子決済会社が国際ネットワークと協業できるようにした。35
- 15年以上にわたり通常のネットワーク利用ができなかった状態を経て、5月にはダマスカスでVisaとMastercardの初期試験取引が報告された。1436
- QNBとMastercardは、POS、EC、SoftPOSでの受け付けに向けたインフラ整備を継続した。23
これらの取り組みが、8月のライブ取引を支える規制面、技術面、商業面の基礎となった。37
全国でカードが使えるまで時間がかかる理由
適格な店舗で決済が成功したことは、決済ルートが機能する証拠ではある。しかし、それだけでシリア国内のすべての店舗に対応端末が設置され、すべての住民が利用可能なカードを持てるわけではない。
全国展開には、より多くのアクワイアリング銀行、加盟店向け端末、安定した通信環境、売上精算の仕組み、コンプライアンスとリスク管理体制、店舗スタッフへの教育、そして幅広いカード発行が必要になる。地域や業種ごとに、認可や運用支援を整える作業も残っている。
Visaも今回の取引を、デジタル決済機能の拡大と、海外からの訪問者が使い慣れたカードで支払える環境に向けた一歩と位置づけている。これは、カード決済がすでに全国で普及したという発表ではなく、展開が始まった段階だと読むべき表現だ。81226
結論
Fransabank LebanonとPaymeraが関わったVisaの実証と、QNBが処理したMastercardのエンド・ツー・エンド取引は、シリアの金融システムが国際ネットワークへ再接続するうえで重要な証拠となった。15年以上の空白を経て、承認済みのシリア国内インフラを通じて国際カード決済の経路が動くことを示したからだ。1115
一方で、より慎重な見方が実情に近い。シリアは国際カード決済への「入口」を再び開いたが、全国展開を完了したわけではない。日常的にカードが使えるようになるかどうかは、銀行、加盟店、決済端末、通信、規制対応といった基盤が今後どの程度広がるかにかかっている。