最後尾からのスタートとなったペレスとキャデラックチームは、ハイリスクな戦略を選択。インターミディエイトタイヤでレースをスタートさせた。しかしこの賭けは完全に裏目に出る。トリッキーなコンディションの中、他のドライバーたちが着実に順位を上げる一方で、ペレスは後方集団から抜け出せずにいた 。
序盤の戦略失敗にもかかわらず、ペレスは後に、マシンの根本的なレースペースは非常に有望で、チームにとって「大きな一歩」だったと振り返っている 。しかし、その期待は残酷な形で打ち砕かれた。レースも終盤に差し掛かった39周目、ペレスがピットレーン入口に差し掛かった時のことだ。車載カメラの映像には、信じられないような光景が映し出されていた。
ペレスは、マシンを真っ直ぐ前に進めるためだけに、ステアリングを大きく左に切り込まなければならない状態に陥っていたのだ 。そしてその直後、軽くブレーキを踏んだ瞬間、彼の駆るキャデラックMAC-26の右フロントサスペンションが、なんの前触れもなく、文字通り崩壊した
。
マシンの右フロントコーナーは折れ曲がり、カーボンファイバーの破片がピットエントリーの路面に飛散。マシンは無残にその場に沈み込んだ。これが、2026年シーズンにおいてペレスが初めて決勝を完走できなかった瞬間だった。公式記録上のリタイア原因は「サスペンション」とされている 。
この一部始終を目撃したF1解説者のマーティン・ブランドルは、実況で「ああ、なんてことだ。壊れただけじゃないか… 彼はそんなに強くブレーキを踏んでいたわけでもないのに」と述べた 。このインシデントがサーキットの高速区間ではなく、ピットレーン付近で起きたことは不幸中の幸いだったと言えるだろう。
レース後、衝撃が冷めやらぬ中、セルジオ・ペレスははっきりと懸念を口にした。彼はキャデラックF1チームに対し、サスペンション崩壊の根本原因を徹底的かつ早急に究明するよう、公に要求したのだ。このトラブルを「奇妙で(bizarre)」、そしてチームにとって「恥ずべきこと」と表現した 。
「これは、僕たちがしっかりと調査し、理解し、そして願わくば完全に掌握しなければならない問題です」とペレスは語り、ヨーロッパラウンドが始まる前に解決することの緊急性を強調した 。ベテランドライバーの苛立ちは明白で、度重なるオペレーション上、そしてメカニカルな問題が、チームのパフォーマンスの成長曲線を積極的に阻害していると警告している
。F1専門メディア『F1i』の週末ドライバー評価では、ペレスは5/10の評価。「このメカニカルトラブルに関して、彼にできることは全く何もなかった」と結論づけている
。
ペレスのドラマは、この週末のスチュワードたちの超人的な業務量のほんの一部に過ぎなかった。F1界のビッグネームが絡む数々の審議が、スプリント予選から決勝後のチェックまで、審議室を休む間もなく忙殺したのだ。
ルイス・ハミルトンは、なんと2つの別件で審議の対象となった。まずスプリントレースでは、最終シケインでマクラーレンのオスカー・ピアストリに対して、コース外に出てアドバンテージを得た疑惑について審議されたが、結果は無罪放免。スチュワードは、ピアストリがオーバーテイク可能なポジションにいなかったため、ハミルトンは「永続的なアドバンテージ」を得ていないと裁定した 。続いて予選後には、ピエール・ガスリーの走行を妨害した疑いで2度目の審議対象となったが、こちらもスチュワードと関係者間で「不必要な妨害はなかった」との見解で一致し、再びペナルティを免れた
。
**ニコ・ヒュルケンベルグ(アウディ)**は、今シーズンでも最も特異なペナルティの一つを受けることになった。彼はレースの3度目のフォーメーションラップ中、セーフティカーライン1での位置取り違反により、執行猶予付きのストップ&ゴーペナルティと正式な戒告処分を科されたのだ。FIAはこの違反を「些細で異例なもの」とし、規定通りの即時適用は「極めて厳しすぎる」と判断。ヒュルケンベルグは今後、同様の違反を犯さない限り、この重いペナルティを実際に消化することはない 。
**リアム・ローソン(レーシングブルズ)**は、前述のヒュルケンベルグと同一のフォーメーションラップ関連の事案で調査を受けた。FIAの公式文書によれば、ローソンも正しい位置におらず、前方のマシンより「予想よりも早く」グリッドを離れたことが確認され、彼自身にとって今季初となる正式な戒告処分に。ただし、ヒュルケンベルグとは異なり追加のペナルティは科されなかった 。
**ジョージ・ラッセル(メルセデス)**は、スプリント予選後、レースディレクターの競技ノートにおけるセクタータイムに関する違反の可能性で審議された。この件はお咎めなしで終わった 。しかし、彼の週末は決勝30周目に悲劇的な結末を迎える。突如としてパワーユニットが故障し、マシンをコース脇に止め、リタイアを余儀なくされたのだ
。チャンピオンシップを争う彼にとって、あまりにも大きな痛手となった。
走路妨害やコース外走行、そして手続き上の違反に大規模なパワーユニット故障まで、モントリオールでスチュワードたちが抱えた膨大な業務量は、この週末を2026年シーズンで最も法的に複雑で、裁定に明け暮れたグランプリの一つとして記憶させるに違いない。
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