ハッカーは盗んだ瞬間から、資金洗浄(マネーロンダリング)を開始していた。
最初の一手は、盗んだ偽のrsETH 89,567枚を主要貸出プロトコル「Aave V3」に担保として差し入れ、そこから**本物のWETH(ラップドイーサ)**約82,650枚とwstETH 821枚を借り出すというものだった。この時点で、担保が無価値だと判明する前に「キレイな」流動性を引き抜くことに成功している 。
洗浄は2段階に分けて行われた。
TRM Labsのレポートによれば、THORChainは2025年のBybitハッキング事件を含む北朝鮮関連の主要な窃盗事件で一貫して利用されており、どのオペレーターも送金を拒否・凍結しない「資金洗浄の大動脈」となっている 。
盗まれた全資金が闇に消えたわけではない。
2026年4月20日(日本時間21日)、イーサリアムのレイヤー2ネットワーク「Arbitrum」のセキュリティ評議会が緊急権限を発動。Arbitrum One上にあった攻撃者の30,766 ETH(約1億ドル、約150億円相当、被害総額の約4分の1)を緊急凍結し、ガバナンス管理下のウォレットへ移動させた 。
12名の評議会メンバーのうち9名が凍結に賛成。これは法執行機関の情報提供を受けた異例の対応だった 。この凍結資金の解除にはArbitrumの正式なガバナンス投票が必要であり
、2026年5月8日には、rsETHの担保回収と流動性回復を目的とした凍結解除の共同提案が承認されている
。
今回の事件で最も深刻な二次被害を受けたのが、巨大貸出プラットフォーム「Aave」だ。
Aaveは直ちに、関連する全チェーンでrsETHの担保掛目(LTV)をゼロに設定し、新規借入を凍結した 。2026年5月中旬までに無価値トークンの95%以上は回収され、最終的な穴埋めはDeFi業界団体「DeFi United」の協力とAave自身のトレジャリーで行われる見込みだ
。
しかし、より重要な遺産は「ガバナンスの改革」である。
2026年5月、Aave LabsのChief Legal and Policy Officerであるリンダ・ジェン氏は、Consensus Miami 2026にて新たな資産審査基準の導入を発表した 。新基準では、以下のような非財務リスクが評価対象に追加される。
この事件の本質は、「スマートコントラクト監査済み=安全」というDeFi業界の思考停止に警鐘を鳴らした点にある。
Lazarus Groupは、監査と実際の信頼基盤の「狭間」を正確に射抜いたのだ。この苦い教訓を経て、業界はようやく、コードの中だけでなく、コードを繋ぐブリッジやノードといった外の世界にも目を向け始めている。
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