機関投資家の動向を最も如実に物語っていたのは、上場投資信託(ETF)の資金フローデータです。米国市場に上場する現物型イーサリアムETFは、17営業日連続で資金純流出を記録し、その流れは6月の第1週まで止まりませんでした。最後に純流入を記録したのは5月8日で、そこから事態は一変したのです 。例えば、6月3日だけでこれらの商品から5290万ドル(約79億円)が流出。その大部分を占めたのは、ブラックロック社の「ETHA」で、実に5160万ドル(約77億円)が一日で引き揚げられました
。
ここで起きていたのは単なる資金の退出ではありません。長期的な保有者が買い向かう需要そのものが崩壊していたのです。グラスノードのデータによると、イーサリアムの「ホドラー(長期保有者)ネットポジション変化」の指標は、6月1日から3日にかけて約80%も急落しました 。これは、通常であれば売り圧力を吸収するはずの投資家層が、市場から完全に姿を消したことを意味します。
価格と資金フローの悪化が止まらない中、機関投資家向けのアナリストは状況を根本から再評価しました。英金融大手スタンダードチャータード銀行は、2026年末のイーサリアム目標価格を、従来の7500ドルから4000ドルへと、実に47%も引き下げたのです。一方で、2030年の長期目標である40,000ドルは据え置きました 。同行のデジタル資産調査責任者であるジェフリー・ケンドリック氏は、この調整を「サイクル的なリセット」と表現し、同時にビットコインの年末目標も100,000ドルに下方修正しています
。
この修正は、同行のレポートを注意深く追ってきた市場関係者にとって、驚きではありませんでした。スタンダードチャータードは2026年2月の時点で、すでに「ビットコインが50,000ドルを試すようなことになれば、イーサリアムは**1400ドルまで投げ売り(カピチュレーション)**されるリスクがある」と警告していたのです 。6月に価格が弱含むにつれ、この最悪のシナリオが単なるテールリスクから、現実的な基本シナリオとして議論され始めました。
この暴落は、2026年に入ってから最大級のロスカット(強制決済)の連鎖を引き起こしました。6月2日、暗号資産市場全体のロスカット額は24時間で**12.3億ドル(約1850億円)**に達し、そのうち買い持ち(ロング)ポジションだけで10.8億ドル(約1620億円)が吹き飛びました 。同日、特に凄惨だった1時間の間に、ビットコインが一時68,000ドルを下回ったことで、約3.94億ドル(約591億円)ものポジションが強制的に決済されています
。
6月2日から3日にかけての累計ロスカット額は、データ集計機関ごとに若干の差はあるものの、約**17.6億ドル(約2640億円)に達しました 。正確な数字はさておき、この強烈な「投げ売りの連鎖」は、市場心理を示す「Fear & Greed Index(恐怖&強欲指数)」を「極度の恐怖 (Extreme Fear)」**領域へと一気に突き落とすには十分すぎる衝撃でした
。
ETFだけが特別だったわけではなく、より広範なデジタル資産投資商品からの「総退却」が進行していました。CoinShares社のレポートによると、世界の暗号資産ETP(上場投資商品)からは、5月の最終週だけで16.7億ドル(約2500億円)が流出。これは2026年に入って2番目に巨額の週間流出額です 。中でもビットコイン関連商品の打撃は深刻で、14.4億ドル(約2160億円)が流出し、今年最大の週間流出額を記録しました
。
さらに市場心理を冷やしたのは、6月1日に飛び込んできた「MicroStrategy」改め「ストラテジー社(Strategy Inc.、Nasdaq: MSTR)」に関するニュースです。同社はわずか32ビットコイン(約250万ドル)の売却を発表しました 。金額そのものは大きくありませんが、これは2022年以来、同社が初めてビットコインを手放したことを意味します。最終的な「法人としてのビットコイン買い集め手」として自らを位置づけてきた同社の、どんなに小さな売却であっても、弱気になりがちな市場においては強烈なネガティブシグナルと受け取られました。
短期的な数字を見ても、その破壊力は明白です。暗号資産の時価総額は、6月1日の約2.57兆ドルから、6月3日には約2.37兆ドルへと急減しました 。しかし、より広い文脈で見ると、事態はさらに深刻です。ビットコインが126,000ドル近辺で取引されていた2025年10月の史上最高値からの下落を考慮すると、市場全体ではピークから実に約2兆ドル(約300兆円)もの価値が消失した計算になります
。つまり、6月に起きていたのは、新しい弱気相場の始まりというより、従来から続いていた弱気相場の「加速」局面だったのです。
今後の展望を語る上で、市場関係者の注目が集まる特定の価格水準があります。それがイーサリアムの1400ドルです。スタンダードチャータードの以前の警告は、ビットコインが5万ドルを試すことを条件に、この「最終的な降伏(ファイナル・カピチュレーション)」局面が訪れる可能性を示唆していました 。市場がそこまで達するかどうかは不透明ですが、6月初旬の急激な内訳のスピードによって、こうした悲観的な予測は一気に現実味を帯びています。
参考までに、イーサリアムが1400ドルを下回ったのは2023年以来のことであり、新規参入した多くの個人投資家は、そのレベルの下落を一度も経験したことがありません。「極度の恐怖」を示す心理指数、現物ETFから逃げ出す機関投資家の資金、そして崩壊したオンチェーンでの買い需要。これらすべての兆候が示しているのは、この市場がまだ底を見つけられていない、という厳しい現実です。
Comments
0 comments