批判が殺到するなか、FIFAは声明を発表。3Dアニメーション表示を司るシステムに「一時的な技術的障害」が発生したことを認めた。ただし組織は「この障害は極めて短時間で解決されており、VARによる実際の意思決定プロセスには一切影響を与えていない。審判団はデータにアクセスできており、問題の選手がオンサイドであると正しく判断した」と主張した。
つまり停止していたのは、視聴者向けのグラフィック生成・送信機能「のみ」だったのだ。しかしこの「システム障害」と「情報公開の怠慢」の線引きこそが議論の中心となった。サポーターや解説者からは「データが存在するなら、意図的でないにせよ、それを隠す行為はSAOTが構築すべきはずの信頼を根本から破壊する」との声が噴出した。
英ITVで解説を務めた元イングランド代表DFギャリー・ネビルは、この“消えた証拠”を単なる技術トラブルではなく、ガバナンスの危機にまで引き上げた。彼はFIFAを「独裁国家(dictatorship)」と断じ、ホスト放送を牛耳る統括団体には判定の正当性を証明する責任があると痛烈に批判したのである。
ネビルの批判は、フロイラーが実際にオフサイドだったかどうかではない。もしオンサイドなら、議論を瞬時に終わらせてくれるはずの証拠をFIFAが公開しなかった、その姿勢に向けられていた。消えた映像は、ルーティンのVARチェックを信頼性の危機へと変貌させ、前半の試合展開を完全に覆い隠した。
ウイングバックのホマム・アハメドがファーサイドへ柔らかなクロスを供給。カタールの主将ブーアレム・フーヒがスイス守備陣の上をいく打点の高いヘディング。これはDFミロ・ムハイムに当たってゴールラインを割り、記録上は一部メディアでムハイムのオウンゴールとされたが、歴史的意味合いは極めて明瞭だった。カタール代表、ワールドカップ初の「勝ち点1」獲得である。
同点弾にカタールベンチは狂喜乱舞。この結果、開催国カナダやボスニア・ヘルツェゴビナも同居するグループBは、全チームが勝ち点1で並ぶ大混戦となった。 2022年の自国開催では3戦全敗。セネガルに1-3で敗れた試合で挙げた1点が唯一のW杯ゴールだったことを思えば、このドローは一つの“汚名返上”に他ならなかった。
カタール対スイスの一戦は、FIFAの高度なテクノロジー構想に潜んでいた脆い隙間を白日の下に晒した。半自動オフサイド判定システムは審判団のために「機能していた」。しかし「技術的障害」によって、他のすべての人々のために「機能不全」を起こしたのだ。
議論を封じるはずのFIFAの迅速な声明は、逆に「元データとラインの完全公開」を求める声に油を注いだ。 早くも、システム障害発生時の「強制的な情報公開プロトコル」を求める声が上がっている。そうでなければ、技術的欠陥は「選択的な情報秘匿(いんぺい)」と受け取られかねないからだ。
FIFAがこうした透明性措置を採用するかは未知数だが、2026年大会最初のメガトン級スキャンダルは、世界中のファンがこれからのVAR介入を、かつてない猜疑(さいぎ)の目で見つめることを確約した。